平成30年理事長年頭挨拶

皆様、明けましておめでとうございます。
 
 量研/QSTとして2回目の新年を迎えることとなりました。一昨年の平成28年4月にQSTの初代理事長に就任し、私は皆様という素晴らしい仲間と大きな可能性を秘めた組織に出会いました。皆様方との素晴らしい出会いは新しい人生のスタートでもあり、体の底から大きな力が湧いてきました。そして、初年度の10月には中長期的な視野に立ち、QSTが目指すべき方向性を「QST未来戦略2016」として、皆様方と共にまとめることが出来ました。現在を多様性爆発の大変革時代と捉えて、QSTは量子科学技術による世界の人々との連携を介して異文化理解や異文化尊重の精神を育むことにより、「調和ある多様性の創造」を目指します。そして、平和で心豊かな人類社会の発展に貢献します。このような理念の下に、QSTは「世界トップクラスの量子科学技術研究開発プラットフォームを構築する」という志に向かって全員の英知と力を結集して進んでいきます。
 現在は、量子科学と生命科学の時代でもあります。世の中のあり方そのものや、私たちの生き方や人生観そのものに大きな変化を及ぼすかもしれません。目の前を見れば、エネルギー、環境、食料や超高齢化社会など人類が解決しなければならない様々な問題があります。QSTは、未来のエネルギーを支える「量子エネルギー理工学(核融合)」、豊かな生活を支える「量子材料・物質科学」、高強度レーザーなどを利用した「量子光科学」、生命科学にパラダイムシフトを促す「量子生命科学」、健康長寿社会を支える「量子医学・医療」、安全・安心を支える「量子防災医療(放射線防護・被ばく医療)」の日本の中核を担っており、現在はQSTの時代であると言っても過言ではありません。
 初年度の平成28年にはQSTが空高く世界に向かって離陸するための滑走路を建設し、昨年は離陸を開始しました。 そして今年、平成30年はエンジン全開で大空高く可能な限り上昇する一年と考えています。 
 それでは、昨年を簡単に振り返り、さらに今年への思いを述べたいと思います。
 
1)まずは量子ビーム部門と高輝度放射光施設についてです。
 QSTでは、イオン、電子、ガンマ線、中性子、レーザー、放射光など、世界に類のない多様なビームを有する研究プラットフォームを強みとして、独自性のある研究を推進しています。世界最高レベルの集光強度を持つ大強度レーザーであるJ-KARENの開発、レーザーを用いた非侵襲生体測定技術の開発やトンネル検査技術の開発、グラフェンスピン流制御やタイヤモンド中のNVセンターの形成制御など、量子ビームによる経済・社会的インパクトが高い成果を創出しています。また、J-KARENを使用してプラズマ特異点からの強力な軟X線バーストの発見や、電子の動きを止めて観る極短パルスX線の実現にあらたな道筋をつけるなど学術的に高いレベルの研究成果も出ています。
 昨年度の法人評価では、特にレーザー関係の業績が認められS評価をいただきました。今年は、新たなレーザー加速である輻射圧加速の世界初の実証を目指すとともに、QST国際シンポジウムを奈良で開催して量研の技術をさらに世界にアピールします。
 QSTの更なる発展に大きく影響を与える重要案件として、高輝度放射光施設の建設計画があります。軟X線領域の放射光発生を主眼とする3GeVクラスの次世代高輝度放射光源は、産業利用及び学術利用に大きな可能性を拓くものとして先進各国が建設を競っています。昨年、文部科学省がその実現を目指して、QSTを施設の整備・運用計画案を検討する国の主体候補として指名しました。引き続き文部科学省等関係機関と連携して次世代高輝度放射光源の建設実現を目指します。現在の研究領域との相乗効果を念頭に、本施設をQSTの研究開発に活かしていくことを鋭意検討していく必要性があります。
 
2)続いて、核融合研究開発についてです。
 ITER事業では、中性粒子入射装置実機試験施設NBTFの重要機器を完成させ、イタリア・パドヴァへの輸送を完了するとともに、中心ソレノイドコイル用超伝導導体の製作を完了し、またトロイダル磁場コイルの製作を計画どおり遂行出来ました。日本の貢献責任を果たした大きな成果として賞賛に値します。また、部門の皆様の努力で、ITERへの派遣日本人数も増加しました。一方、BA事業ではJT—60SAの組み立てが順調に進んだほか、IFMIF原型加速器における世界最大級の大電力高周波入射の開始や六ヶ所研から650 km離れた東大の核融合実験装置を用いた遠隔実験の成功などが特筆されます。
 今年は、各事業を国際約束に従って着実に進展させることを念頭に、ITERでは愈々トロイダルフィールドコイル1号機の完成及びフランスへの輸送を目指す段階に進み、BAでは間もなくIFMIF原型加速器の5MeV加速試験に着手します。また、核融合専用大型計算機の運用を開始しますし、遠隔実験では英仏のトカマク装置と結んだ試験が行われます。さらに、JT-60SAでは組み立てが進み、2020年の完成に向けた作業が佳境に差し掛かかります。
 このように力強い歩みを遂げつつある核融合ですが、那珂核融合研究所の設備機器の経年劣化への対策や原型炉実現に向けた炉設計、各種要素技術の開発など、並行して取り組むべき課題も多いことから、関係者の皆様の一層の努力を願って止みません。
 
3)続いて健康長寿社会実現に向けての研究開発についてです。
 「がん死ゼロ」と認知症やうつ病などの精神・神経疾患の早期発見と予防・治療を究極の目標と位置付け、「量子医学・医療」の観点から健康長寿社会の実現に向けて研究開発を推進していきます。QSTでは、タウ蛋白等の分子イメージングを「量子イメージング」と位置付け、認知症、うつ病などの発症機序の研究のみならず、診断・治療薬の研究開発をイノベーション・ハブの枠組みを利用しながら引き続き推進していきます。また、標的アイソトープ薬剤の開発では日本で中心的な役割を果たしています。引き続き転移がんの治療に向けて新たな薬剤開発を行い、「量子メス」と一緒に用いることで「がん死ゼロ」の実現を目指します。さらに、新規ナノ粒子造影剤の開発についても成果が出て、今年は、病気を読み出す「センサー型MRI造影剤」や、超高感度と超高速撮影を実現する新型7T-MRIの開発を始めます。量子イメージングのためのPET薬剤やヘルメットPETなど世界初の次世代MRIやPET等の医療機器開発もQST国際リサーチイニシアティブとして、総合的に進めていきます。
 重粒子線がん治療に関しては、一昨年4月に骨軟部腫瘍に対して保険収載が認められましたが、引き続き他のがんについても保険収載に向けて、臨床研究を進めます。特に、膵臓がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がんの4つの疾患について前向きの多施設共同臨床試験(先進医療B)を着実に進めます。中でも超難治がんである膵臓がん「QST戦略標的がん」に指定すると共に、米国University of Texas Southwestern (UTSW)、イタリアNational Centre for Oncological Hadrontherapy (CNAO:クナオ)との国際共同研究として、初めてのランダマイズ比較試験を開始します。
 未来ラボ「量子メス」は、核融合部門、量子ビーム部門、そして放医研の連携によって、レーザー加速入射器、超伝導加速器、マルチイオン治療といった主要技術の研究開発を行う体制ができました。一昨年に包括協定を結んだベンダー4社とも量子メス共同研究グループを発足させ、役割分担や基本概念の検討、知財協定などの体制整備、要素技術の共同研究などを開始しました。
 研究開発の財源に関しては、未来社会創造事業大規模プロジェクト型の大型外部資金を獲得することができました。引き続き外部資金獲得の努力をするとともに、寄付金や自己収入などの財源を戦略的に確保していきます。QSTが一丸となり量子メスプロジェクトを成功させ、「がん死ゼロ健康長寿社会」実現に貢献したいと思います。この目的実現の一環として、すい臓がんを「QST戦略標的がん」に指定して、量子メス、標的アイソトープ療法、量子イメージング研究が密に連携する体制が出来たことは素晴らしいことだと思います。
 
4)次に未来ラボ、萌芽的研究、融合研究等についてです。
 融合研究や拠点横断的研究、或いは萌芽的研究を推進するための戦略的理事長ファンドは、若手を対象とした萌芽的研究20件、拠点横断的な創成的研究は課題数を増やし助成数を15件にしました。QST未来ラボ制度では、昨年来の研究をふまえた4つの研究、「量子細胞システム研究」、「量子メス研究」、「先端量子機能材料研究」、「EUV超微細化技術研究」に加え、「量子MRI研究」を新たに開始しました。これらの未来ラボが将来大きく育つことを楽しみにしています。
 昨年は、QST内外の研究者が参加する量子生命科学研究会を発足し、第1回量子生命科学研究会を開催しました。さらに、第1回QST国際シンポジウムを日本では初めてとなる量子生命科学をテーマとして開催し、国内外の著名な研究者とネットワークができました。この資産を元に、日本や世界における「量子生命科学」の先導役を果たしていきます。量子センサーや分光技術、構造生物学の技術を取り入れ、QSTが蓄積してきた放射線によるDNAの初期損傷とその修復、突然変異の誘発、それに伴う発がんなど、QSTの強みを活かした研究を進め、実績を作っていっていただきたいと思います。また、統合玉につきましても、例えば、関西研と放医研が協力することにより2光子顕微鏡用レーザーが開発されたことは、高く評価できます。 
 
5)次に放射線影響・被ばく医療研究、そして、指定公共機関としての役割についてです。
 放医研は、昨年60周年を迎え記念講演会を行い、低線量放射線の影響研究、被ばく医療研究などの最近の成果を紹介しました。また、子どもの被ばくによる発がんリスクの実証とそのメカニズムを明らかにしました。さらに、世界で唯一の動物施設内で中性子線を照射できる中性子線発生装置NASBEEを使って、中性子線被ばくによる発がんの年齢依存性を明らかにしました。また、低線量・低線量率放射線の影響研究におきましても、規制に資する重要な基礎データを提供しました。幹細胞放射線生物学再生医療による放射線障害の治療、粒子線がん治療の高度化などの新たなエビデンスを提供することを引き続き推進します。この領域の研究者の皆様には、今後、QSTとして進めていく量子生命科学研究へも積極的に参加して欲しいと思います。
 福島復興再生基本方針(平成24年閣議決定)や参議院の附帯決議にあるように低線量放射線に関するエビデンスを蓄積し、そして正しい情報を提供し、誰にでも利用できるリスクコミュニケーションツールやナレッジデータベースを構築することは原子力規制委員会の技術支援組織(Technical Support Organization :TSO)としての役割でもあります。オールジャパンの低線量プラットフォームの立ち上げを進め、ヨーロッパや米国との国際共同研究も積極的に進めていきます。
 QSTの重要な社会的役割に、「災害対策基本法」と「国民保護法」に基づく指定公共機関として、放射線や原子力事故並びにテロへの対応があります。昨年6月には、日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターでプルトニウムによる体内汚染事故が起きました。QSTは、放射線被ばく医療専門機関として職員が連携し、体表面除染、線量評価、そして線量低減化のための治療を行いました。これまでの経験と専門性の積み重ねの成果です。この能力を今後とも維持・発展させることは、QSTの重要な課題であり、原子力規制庁等と密に連携しながら進めていきたいと思います。
 以上、放射線影響、防護、被ばく医療分野は国内外でのプレゼンスが高く、原子力規制委員会のTSOや高度被ばく医療支援センターとしての役割のみならず、IAEAやWHO の協力センター(Collaborating Centre:CC)や緊急時対応能力研修センター(Capacity Building Centre:CBC)としての活動、UNSCEARへの委員派遣などの活動を通して、我が国における国際的な中核的機関を目指します。
 
6)続いて、産学官連携で進める研究開発についてです。
 先ほど述べましたように、QSTは一昨年12月に重電4社と「量子メス」開発の包括協定を締結しました。今年は全体設計を確定する一方、加速器を始め個々の要素技術について、参加各社とともに精力的な研究開発を本格的に開始します。また、QSTが中心となり産業界と共同で技術突破を実現する「イノベーション・ハブ」事業において3種類のアライアンスが昨年成立し活動を開始しました。参加企業と開発資金を出し合って進めるこれらの事業は、今後共通基盤の整備を踏まえ、商業化に向けた個別の共同研究へと順次進展していくことになります。
 外部研究機関等との研究協力枠組みの整備では、国立がんセンター、千葉市、北海道大学、琉球大学等と相次いで協力取り決めを結び、初年度に取り交わした大阪大学、千葉大学、群馬大学、福島県立大学や東北大学などと合わせて、QSTとして当面想定される相手方の殆どと協力関係を構築しました。また、QSTリサーチアシスタント21名を採用し、QSTサマースクールでは56名の受け入れを行いました。今年は、これらの制度を十分に活用し、QSTの研究活動の幅を更に広げていただきたいと思います。
 
7)続いて、国際戦略についてです。
 昨年7月に量子生命科学をテーマとした第1回QST国際シンポジウムを海外から12名の招待講演者をお招きして開催しました。2日間の会期中、外部参加者は193名、内部からは121名、同時開催したJoshikaiの55名を合わせると合計で413名の参加者があり大盛況でした。海外の招待講演者からも大変高い評価をいただきました。これは、QST発足後初めての国際シンポジウムであると同時に、日本初の量子生命科学の国際シンポジウムとしてQSTが量子生命科学という新しい学問分野を先導していくことを国内外に強くアピールする画期的な催しだったと言えます。
また、シンポジウムと同時開催した科学技術分野における女性進出に関する国際ワークショップ(Joshikai)には、全国のQST拠点が位置している都府県の高等学校16校から55名の女子生徒を招待しました。女子生徒たちが、世界で活躍している女性研究者と将来への希望や不安、課題について活発に議論をしている様子を見ると、若い力と可能性を存分に感じることができました。
今年は11月に量子ビーム部門が中心となり、高強度レーザーをテーマとして第2回QST国際シンポジウムを開催します。また、量子メス、MRI研究についても国際シンポジウムを開催し、更なる国際協力の推進とQSTの国際的存在感を示していきます。
 さらに、昨年創設したQST研究者と海外のトップレベル研究者との研究交流を支援するQST国際リサーチイニシアティブ制度(IRI)の下で、Whole gamma Imaging研究が今年4月から開始されます。一方で、各種制度を利用した外国人研究者の受け入れやアジア原子力協力フォーラム(FNCA)の活動などについて、引き続き実施して参ります。このような戦略的な国際交流を通じて、国際的に通用する高レベルな研究成果の創出と国際人材の育成を目指していきます
 
8)社会への情報発信について
 社会に対する情報発信は重要です。各拠点が様々な行事を開催しました。例えば4月の科学技術週間行事の一環としての所内施設公開、夏には子供達を対象とした霞ヶ関子ども見学デー、科学の祭典などへの参加、さらに11月に開催されたサイエンスアゴラでは、QSTの研究活動の一端を一般市民の方々に発信しました。
 「きっづ光科学館ふぉとん」は国内唯一の光のテーマ科学館で、光・量子・放射線をテーマとして、科学を楽しむための展示館です。大規模な展示館ではありませんが、地域に根ざした理科教育ならびに理科系人材の育成の機能を強化します。土日や夏季イベントを充実し、さらに教育委員会への広報を通じて、リピーターの増加、団体利用などを積極的に進め、入館者を増やします。特に京都と奈良の間にあるという好立地を生かして全国から多くの修学旅行生が訪れるようにしたいと思います。また、QSTの研究開発の展示館として新たに拠点のポスターの設置や展示装置の充実、拡充に努めます。
 QSTの認知度を上げるために、ホームページを一新して、より明確にQSTのアイデンティティを示すとともに、量研一体的な情報発信によりユーザー満足度を向上させます。パンフレットでも国内外にQSTの研究並びに施設の分かりやすい広報を行います。また、外部に向けた情報発信であるQSTニュースレターでは、研究成果の発信に加え、研究者の顔も見えるようにするとともに、特に若手研究者の紹介を積極的に進めます。定期的にプレス関係者や記者との情報交換会を開催し、QSTの最新の研究成果やその研究内容の解説、あるいは研究者の紹介を積極的に進めていきます。また、現場からの情報を集める仕組みをつくり、国民が興味や関心を示すような研究成果などを取り上げ、積極的なプレス発表を行います。
 
9)次に、人事制度及び評価制度についてです。
 QSTを形作っているのは職員の皆様です。組織としての研究開発力を最大化するために、人事制度や評価制度の改革を戦略的に推進していきます。
昨年は、職種転換の促進、研究職への研究業績審査制度の導入、資格取得への助成制度の導入、QSTアソシエイト制度の創設、リサーチアシスタント制度の創設、理事長表彰の充実などを行いました。
今年は、昨年設けました職員採用に当たっての理事長調整枠を活用して、4月にその初めての採用を行い、戦略的に取り組む分野に人材を振り向けていきます。また、4月には労働契約法の改正が施行となります。これに合わせて、任期制職員の無期転換を行う制度の導入を行います。さらに、優秀な研究者の獲得が一層促進されるよう、外部からのリクルートを含めた公募制度やキャリア採用を積極的に活用するとともに、職員配置の柔軟な変更を継続していきたいと考えています。研究所や研究グループのリーダの方には引き続き外部から優秀な人材を確保する努力をお願いします。
 
10)次に財務戦略、知財戦略についてです。
研究成果を社会に還元するとともに、研究への再投資へ繋げていくという、未来を見据えたポジティブサイクルの確立を目指していきます。平成30年度の国からの予算は2017年度に対してほぼ横ばいの状況が見込まれ、今後QSTが研究開発を大きく進展していくためには、政府からの予算に大きく依存するのではなく、競争的資金、自己収入、寄付金などを増やすことにより財務基盤を強化しなければなりません。政府も大学や国立研究開発法人が、公的資金主体の「運営」から民間資金も活用した「経営」へと脱却し、資金源を多様化して、財務基盤を強化するための制度改革を進めているところです。
このため、昨年は、戦略的理事長ファンドの強化を進めるために、特許等による知的財産収入の研究者個人へのインセンティブ割合の見直し、寄附金制度のQST未来基金への一元化、競争的資金確保のための組織的支援強化などを実施いたしました。そして、各部門からヒアリングを行い、戦略的分野や評価の高い研究グループ、或いは人材育成に対して、集中的に戦略的理事長ファンドの配賦を行いました。
今年は、以上のポジティブサイクルがより大きな規模に育っていくよう取り組むつもりです。このため、寄付金集め強化のためのファンドレイジング計画の実行、契約差額の俯瞰的活用、病院の財務改革、雑収入の精査など、自己収入の拡大に向けて種々の取り組みを積み重ねていきます。特に、戦略的に病院収入を増やし研究開発資金に振り向ける道を探ります。さらに、自己収入の把握から資金の配賦までの仕組みを強化し、QSTの運営に対し適切に反映できるようにしたいと思います。
また、学術的成果と並走して新規知財の創出が活発に行われたことは、経営的観点から心強い限りです。QSTが保有する知財の活用について、皆様の創造的発想を期待するものです。特に昨年は、原子力機構からの継続も含めて3件のQSTベンチャーを認定しました。QSTの研究開発実績を生かした特徴あるビジネスを目指しており、今後速やかに企業運営が軌道に乗るよう期待しています。ビジネスの成功がQSTにとっても実質的な利益となり、QSTへの自己投資にフィードバックされるよう、ポジティブサイクルの実現を目指します。
 
11)最後にリスク管理、安全、環境配慮についてです。
 安全であることや社会から信頼を得ることの重要性は今年も何ら変わりません。
昨年は、QSTとして初めての環境報告書をとりまとめるとともに、安全意識の向上と安全文化の醸成に向けた取り組みを進めました。一方で、職員が酒気帯び状態で車を運転して事故を起こし、処分の対象となりました。また、監督官庁から化学物質の適切な取り扱いについての指摘を受ける事態もありました。
社会からの信頼を確立するためには長い年月を必要としますが、信頼を失うのは一瞬です。緊急時対応、倫理コンプライアンス遵守、契約監視、研究不正防止、情報セキュリティ、ハラスメント防止、環境配慮など、取り組むべき課題は幅広いですが、今年は、昨年にも増して、QST構成員すべての皆様とともに努力していきたいと思います。ご協力をお願いいたします。
 
12)最後に、
 昨年は放医研創立60周年を迎え、記念講演会が開催されました。特別講演は「チバニアン」に大きく貢献された茨城大学の岡田教授にお願いしました。地球の46億年の歴史において地磁気逆転は数万年から数十万年に1回起こっています。最後の地磁気逆転が77万年前に起こり、そのことを見事に示す地層が千葉県にあることから77万年前から12万6千年前の間をチバニアンと命名することが国際委員会において検討されているとのことでした。放医研60年の歴史は77万年と比較すると1万分の1のスケールです。次回の地磁気逆転は数万年以内に起こることが予想されますが、これは放医研にとり僅か数年以内ということになります。すなわちQSTは、今地磁気逆転にも相当するような大転換期の最中にあると言うことができます。この大転換期をチャンスと捉えて皆様と力を合わせて未来に向かって大きく発展していきたいと思います。今年は「QST未来戦略2016」のその先を見つめ、QSTのあり方を再検討するために「QST将来問題検討委員会」を設立し、広く皆様の意見や思いを共有していきたいと考えています。
 「もし明日死ぬとすれば、今日何をするか」、これはスティーブジョブズ氏が残した有名な言葉です。研究開発においても、組織の運営においても、何が本質的に重要かを問いかけることが最も重要です。時間や財源などの制約の中で何を捨て、何を残すべきかを真剣に見つめ直せば、自ずと物事の本質が見えて来ます。限りなく削ぎ落し、物事をシンプルにすることにより、隠れていた真理が現れるという、禅の心にも通じます。今年は是非、このことを念頭において研究開発を最大化するために、それぞれの立場で何が最も大事かを考えながら取り組んでください。
 昨年末にQSTイントラネットに「理事長のつぶやき」というコラムを設けましたので、時間のある時に訪れてください。
 
 元旦のつぶやきは、「日出て乾坤輝き、雲収まりて山岳青し」古尊宿語要より)
です。
 
それでは、2018年がQSTにとり素晴らしい年になることを願うとともに、皆様方のご健康とご活躍をお祈りして、私の新年の挨拶に代えさせていただきたいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。