平成31年理事長年頭挨拶

 1月8日に行われました、当機構理事長 平野俊夫による、職員向け「2019年 年頭挨拶」を下記の通りお知らせいたします。

 
 
 
 皆様、明けましておめでとうございます。
 2016年4月1日にQSTが発足してから3回目の新年を迎えることとなりました。私が皆様という素晴らしい仲間と、大きな可能性を秘めた組織に出会ってから2年9ヶ月、この間に皆様とともに多くのことにチャレンジしてまいりました。初年度の2016年10月には中長期的な視野に立ち、QSTが目指すべき方向性を「QST未来戦略2016」として、皆様とともにまとめることができました。その中でも述べているように、現在を多様性爆発の大変革時代と捉えて、QSTは量子科学技術による世界の人々との連携を介して、量子科学技術を推進することは勿論のこと、異文化理解や異文化尊重の精神を育むことにより、「調和ある多様性の創造」を目指します。そして、平和で心豊かな人類社会の発展に貢献します。このような理念の下に、QSTは「世界トップクラスの量子科学技術研究開発プラットフォームを構築する」という志に向かって全員の英知と力を結集して進んできました。その1つの例が、「がん死ゼロ健康長寿社会」実現を目指して、QSTの全ての部門が参加して推進している次世代重粒子線がん治療装置「量子メス:Quantum Scalpel」研究開発プロジェクトです。
 そしてこの間に、世界における量子科学技術の重要性が増し、その担い手としてQSTに対する期待感がますます高まってきました。その結果、昨年は、これまでの活動が認められて、オールジャパンとして重要な複数の事業を、QSTが主体となって開始することになりました。
 まず、QST発足直後から様々な取組をしてきた量子生命科学が予算化されて、具体的な研究開発が始まりました。また、次世代放射光施設の整備・運用の検討を進める国の主体としての指名、国の重要プロジェクトである戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の管理法人としての指名、加えて、原子力規制庁からの基幹高度被ばく医療支援センターとしての期待など、国の事業の中核を担う組織として、QSTは今まさに飛躍を遂げようとしています。
 このように、QSTを巡る状況は急激に変化しています。また、発足から2年以上が経過して、QSTの円滑な研究開発活動を進める上での課題も見えてきました。そこで、「QST未来戦略2016」の先を見据え、QSTが今後さらなる飛躍を遂げるための戦略を検討する「QST未来戦略検討委員会」を4つのワーキンググループとともに昨年1月に設置し、議論を重ねました。その結果、今年4月に組織改革を行い、業務運営の効率化や研究開発成果の最大化を図ることとなりました。今年は、この改革を追い風に新たな事業を軌道に乗せて、「大空へ上昇中のQSTを皆様と力を合わせてより高みへと導く1年にしたい」、そう考えています。
昨年には四半世紀を経て、初めて放医研の重粒子線がん治療装置の技術が世界に羽ばたくことが決まりました。また、従来の骨軟部腫瘍に加えて、前立腺がんと頭頸部腫瘍が保険適用になりました。今年は重粒子線によるがん治療25周年に当たります。そして2020年のJT-60SA完成に向けていよいよ待った無しの秒読みの1年となります。発足当時の単なる組織の寄せ集めではなく、真に1つの研究機関として、そして量子科学技術における日本の、ひいては世界の牽引役として、今年4月1日、新しい元号を先取りする形で、QSTは皆様と力を一つにしてQSTver.2として生まれ変わります。すなわち、QSTは古い上着を脱ぎ捨てて、新生QSTとしての一歩を踏み出すことになるのです。
 それでは、今年への思いについてトピックスを挙げつつ述べたいと思います。
 

【組織改革】

 冒頭でも申し上げたとおり、QSTを巡る急激な状況変化を受けて、業務運営の効率化や研究開発成果の最大化のため、今年4月に、現在の3部門を1)量子医学・医療部門、2)量子ビーム科学部門、3)核融合エネルギー部門とした上で、これから述べる五つの柱からなる組織改革を行うこととしました。
 一つ目の柱は「量子生命科学領域」の新設による量子科学研究の体制強化、二つ目の柱は、昨年12月に設置した「次世代放射光施設整備開発センター」による次世代放射光施設の整備・運用に関する業務の推進、三つ目の柱は「高度被ばく医療センター」の新設による高度被ばく医療支援体制の強化です。また、四つ目の柱は研究開発病院としての病院経営の強化を目指した新生「QST病院」における改革です。そして最後の柱が、これら四つの柱により増加する業務量に対応するために必要不可欠な事務体制の効率化です。
 この結果QSTは、量子医学・医療領域放射線安全領域量子材料・物質科学領域量子光学領域、量子エネルギー理工学領域、量子生命科学領域6研究領域を、5研究所2センター、そしてQST病院で展開していくことになります。また、昨年QSTはSIP「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」の管理法人に指名され、レーザー加工、光・量子通信や光電子情報処理などの研究開発にも一定の関与をすることとなりました。この結果、QSTは量子科学技術のほぼ全ての研究領域を包括する日本で唯一の国立研究開発法人となります。
 
では、それぞれの項目について、詳しく述べていきます。
 

【量子生命科学領域】

 QSTでは、発足当初から、「量子論や量子技術に基づく生命現象の解明と医学への展開」を目標に掲げ、新たな分野融合研究である「量子生命科学」の確立に向けた取組を行っています。この取組を通じ、分子レベルから量子レベルの計測と現象の理解を通じて生命科学にパラダイムシフトを起こし、命と物質の根源的な違いを明らかにするとともに、これを通じて得られた知見を医学・医療は勿論のこと、量子科学技術をはじめとした幅広い分野に生かすことで、新たなイノベーションの創出を目指しています。これまでに、複数の研究機関と連携し、2年前にオールジャパン体制の量子生命科学研究会を立ち上げるとともに、学術活動や国際シンポジウムの開催などを行ってまいりました。さらに、放医研の拠点を中心として、ナノ量子センサを用いた細胞中の局所的な電位・磁場等の計測などの研究開発も開始しました。
 そして今年4月には、「量子生命科学」を重点的に推進するため、理事長直轄組織として「量子生命科学領域」を新設します。この領域研究を強力に推進するため領域長および領域研究統括を設け、大学の先生方をクロスアポイントメント制度等によりお迎えし、オールジャパン体制で推進して行きます。これらの領域長や領域研究統括を中心にQST内の各拠点の皆様が有機的に連携するとともに、QST外の研究者とも連携し優れた研究成果を世界に発信し続ける研究体制を構築していきたいと思います。さらに、今年4月には「一般社団法人量子生命科学会」を立ち上げるとともに、第3回QST国際シンポジウムのテーマとして、再度「量子生命科学」を取り上げます。

 
【次世代放射光施設整備開発センター】

 軟X線領域の放射光発生を主眼とする3GeVクラス次世代高輝度放射光源は、産業利用及び学術利用に大きな可能性を拓くものです。我が国の次世代放射光施設の整備・運用事業は官民地域パートナーシップにより進めることになっており、QSTは、昨年1月に施設の整備・運用の検討を進める国の主体として文部科学省から指名されました。これまでの実績に加えて、何より、新しい組織であるQSTがさらに大きく飛躍することへの強い期待が込められていると理解しています。また、パートナーとしては、一般財団法人光科学イノベーションセンターを代表機関とする、同財団、宮城県、仙台市、東北大学、及び東北経済連合会が昨年7月3日に正式に選定されました。これらを受けて、パートナーと協力しながら施設・設備の着実な整備を進めるために、昨年12月に量子ビーム科学研究部門に「次世代放射光施設整備開発センター」を新設し、詳細な仕様検討等を開始しています。QSTが名実ともに量子科学技術研究開発プラットフォームの役割を果たすための大きなステップになると信じています。
 

【高度被ばく医療センター】

 昨年4月に開催された第3回原子力規制委員会において、専門家の人材育成や、内部被ばくに関する線量評価等で中心的な役割を担う「基幹高度被ばく医療支援センター」が新たに指定されることが決まりました。
 現在我が国ではQSTを含む5センターが高度被ばく医療支援センターとして活動していますが、今回の原子力規制委員会の決定を受けて、QSTはこれまで培ってきた知見と経験を十二分に発揮する好機ととらえ、基幹高度被ばく医療支援センターへの指定も視野に入れつつ、国の拠点として我が国の被ばく医療をけん引する大きな役割を果たせるように、その組織と運営体制を強化していきます。具体的には、量子医学・医療部門に「高度被ばく医療センター」を新設します。関連する施設の建設も決定しました。これによって、指定公共機関及び高度被ばく医療支援センターとして日本の中核的役割を担っている放射線被ばく医療を、将来を見据えて、より機動的に整備・運営できる体制を整えるとともに、関連研究開発を一体的に実施します。

 
【QST病院】

 現在の放医研病院を改組し、名称をQST病院と改めQST全体の病院と位置付け、量子医学・医療における研究開発病院としての性格付けをより明確にするとともに、病院経営の強化を進めます。これにより、QST病院は研究成果の医療への実際の展開を通じて量子医学の研究と医療を有機的に連関させる極めて重要な役割を担うことになります。この役割を果たすため、病院の企画・経営体制を強化し、より機動的な運営を行うことができる体制を整備します。また、自由診療の収益を「量子メス:Quantum Scalpel」研究開発プロジェクトの研究開発資金の一部に充当させることにより、本プロジェクトの実現を加速していきます。単に病院の名称を変えることにとどまらず、「研究開発病院」として、QSTのもつ重要な側面である「社会貢献」の一翼を担うべく、その役割を明確にしていきます。
 

【事務部門の効率化】

 以上のような組織改革に合わせて、業務量の変化に確実かつ柔軟に対応するための、事務部門の改革を行います。具体的には、本部に財務部を新設することで経理・契約業務の改善を図るなど、本部と部門の効果的な機能連携を目的とした効率的な体制を構築することとしました。今後も不断の見直しを行い、最適化を進めていくため、皆様のご意見をいただきたいと考えています。
 

【各部門等の重要事項】

 以上の組織改編で触れられなかった事業についても引き続き着実に進めることは言うまでもありません。
 量子医学・医療研究では、昨年4月に国内で保険適用が拡大された重粒子線がん治療について、米国UTSWらとの国際共同プロジェクトを介する膵臓がんの国際ランダマイズ比較試験を滞りなく進め、海外への普及にも一層の弾みをつけることが期待されます。また、「がん死ゼロ健康長寿社会」実現に向けて、QSTの全組織の英知を結集して推進している次世代重粒子線がん治療装置である「量子メス:Quantum Scalpel」の研究開発をさらに加速していくとともに、引き続き外部資金の獲得を目指します。また、中長期計画に沿って確実な成果を出し続けている標的アイソトープ治療脳機能イメージング研究をより厚みのあるものとして加速して行きます。QSTに課せられたミッションとして、社会的な関心が今なお高い低線量放射線の影響に関する研究を地道に進め、IAEAやWHO、ICRPなどの国際機関への貢献を推進することも極めて重要です。
 量子ビーム科学研究では、高崎研を中心とした量子材料・物質科学領域と関西研を中心とした量子光学領域の研究拠点の構築に向けた強化をそれぞれ進めてきました。
 今年は、東京工業大学や東北大学と締結した研究協力協定に基づき、量子計測・センシングや磁性・スピントロニクス研究開発を進展させます。また、国際協定の締結や昨年11月に開催した第2回QST国際シンポジウムの実績を背景に、高強度レーザー科学研究を加速させていきます。合わせて、国の大型プロジェクトである光・量子飛躍フラッグシップ(Q-LEAP)未来社会創造事業の枠組みを十分に活用し、単なる量子ビームプラットフォームの提供に留まらず、世界をリードする研究拠点形成を目指した活動を推進します。
 QSTが我が国の代表機関として国際約束の中で実施している核融合技術開発は、ITERの2025年稼働、JT-60SAの2020年ファーストプラズマに向けて非常に重要な局面を迎えています。特に、那珂研において建設を進めているJT-60SAは、今年中に建設の最後の山場を迎え、オリンピックイヤーである来年2020年には稼働を始める予定です。ITERについては、今年中に日本製の超伝導トロイダル磁場コイルのITER機構への納入が始まり、本体組立開始に向けて機器製作も佳境を迎えております。六ヶ所研における原型炉設計加速器開発などの幅広いアプローチ活動も、再来年度からのフェーズ2での活動拡大に向けて、フェーズ1の目標を達成するための重要な1年となります。
 

【QSTの認知度向上】

 QSTが継続的にその力を発揮して発展していくためには、理事長たる私や、理事や広報課長が先頭にたって広報活動をすることはもちろんですが、皆様一人ひとりがQSTの広報パーソンとなって、社会にその名前と活動を知っていただき、QSTサポーターを増やしていくことが不可欠です。内容を充実させて来館者増につながっている「きっづ光科学館ふぉとん」に加えて、今年は、大阪市にある大阪科学技術館にQSTの展示スペースを新たに開設するとともに、きっづ光科学館との連携を進めます。また、今年4月よりQSTのホームページをスマートフォンへの対応を含めてリニューアルします。
 QSTサポーターからのQST未来基金への寄附についても、寄附者の御芳名を紹介する銘板を本部に設置するなど取組を充実させており、引き続き活動を進めてまいります。
 

【最後に】

 これから予定している改革について、様々な不安を抱いている方がおられると聞いています。確かに変化の渦中にあるときは先が見通せないということもあって、人は誰しも「不安」を抱くものです。しかし「不安」の裏返しは「可能性」です。「変化があるからこそ、無限の可能性がある」のです。
 QSTの皆様は、年齢に関わらず、将来への可能性を追求していただきたい。夢を求めていただきたい。執行部の大きな役割は現状維持で安全運転をすることではなく、向上心を抱いて未来に挑戦し、変化を求め、夢の可能性を皆様に提供することにあると考えています。「変化はチャンス」と考えて、是非とも高い志を抱いて未来に挑戦してほしいと思います。
 よく、「天の時、地の利、人の和」が、物事を成就する上で重要な要素であると言われます。これら3つがすべて揃えば、その結果は想定をはるかに超えたものになると思います。禅語にも「葉落ち花開く自ずから時有り」、という言葉があります。QSTにとり、今、「その時」が間近に迫りつつあると思うとワクワクしませんか?「花開劫春」は遠い将来のことではなく、目の前に迫っているのではないでしょうか。 そして、新しいQSTを牽引するのは、他でもないQSTの構成員全員、皆様自身です。冒頭でも触れたとおり、今年4月1日、新しい元号を先取りする形で、QSTは皆様と力を一つにしてQSTver.2として生まれ変わります。皆様と力を合わせて「Quantum Leap」 しましょう。
 
「夢は叶えるためにある」
 
 それでは、2019年がQSTにとって素晴らしい年になることを願うとともに、皆様方のご健康とご活躍をお祈りして、私の新年の挨拶に代えさせていただきたいと思います。

 
 
 
〔ご参考〕



 
年頭挨拶動画はこちらから



 
平野理事長の皆様へのご挨拶とともに、
職員向け「2019年 年頭挨拶」をまとめたものです。