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プレスリリース

1-D核融合エネルギー研究開発部門2017/04/21

核融合実験炉用「ジャイロトロン」の初号機、二号機が完成
-イーターの運転開始に向けた機器製作が大きく前進-

発表のポイント

  • 国際熱核融合実験炉イーターのプラズマ加熱に用いる高出力マイクロ波源「ジャイロトロン」の日本製初号機、二号機が、ロシアや欧州に先駆けて完成。
  • 高出力を長時間連続で安定に維持し、かつ長期間運転に耐える性能を実現、イーターの運転開始とその後の核融合実験に向けて大きく前進。
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)と東芝電子管デバイス株式会社(社長 中牟田 浩典。昨年12月よりキヤノングループ。以下「TETD」という。)は、南フランスに建設中の国際熱核融合実験炉イーター1)でプラズマ加熱に用いる高出力マイクロ波源「ジャイロトロン」2)の初号機、二号機を、ロシアや欧州に先駆けて完成させました。今後、量研の那珂核融合研究所において慣らし運転を実施し、その後フランスに輸送する計画です。この成果は、イーターの運転開始とその後の核融合実験や研究に大いに貢献するものです。
人類の未来のエネルギー源として期待される熱核融合炉では、燃料である水素ガスを数億度にまで加熱したプラズマという状態を、長時間維持する必要があり、その高度な技術を確立することが熱核融合炉の実現の鍵と言えます。イーターではプラズマ加熱の手法の一つとして、マイクロ波と呼ぶ電磁波を使用します。マイクロ波は食品の加熱を行う電子レンジでも利用されていますが、電子レンジで用いるマイクロ波は2.45ギガヘルツ、0.5キロワット程度です。これに対してイーターでは、周波数で約百倍の170ギガヘルツ3)、出力で2千倍の1000キロワットのマイクロ波を出力する能力を持ち、さらには十年以上の長期間にわたって使用可能なものが必要とされています。
高出力のマイクロ波を発生させるためには、ジャイロトロンと呼ばれる真空管を用います。イーターでは24機を必要とし、日本、ロシア、欧州が製作を担当します。量研は日本が担当する8機を製作しますが、この高い性能を実現するため、量研がマイクロ波発生に係る主要機器の設計や高出力試験を実施し、TETDが構造設計と製作を行い、1990年代より協力して核融合用ジャイロトロン開発を進めてきました。
そのジャイロトロンでは、その心臓部である空洞共振器4)(以下「空洞」という。)や超伝導磁石などに高い技術が求められますが、量研とTETDは、イーターで必要とする性能を達成するための技術開発に取り組み、周波数170ギガヘルツで1000キロワット出力や電力効率50%などの性能を世界に先駆けて実証しました。その結果、開発したジャイロトロンの高い性能が評価され、2009年に「国立科学博物館重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」に登録されました。今回、この技術を発展させ、イーターにおける高出力を長時間連続で安定に維持し、特に長期間運転に耐えるという性能を実証するための改良と技術開発を行いました。具体的には、①円筒状空洞の熱疲労変形を抑えるために内径を拡大して熱負荷密度を低減したこと、②不要な周波数のマイクロ波(競合モード)の発生を抑えるために、電子ビームの速度をきめ細かく制御する新たな運転方式を開発したことです。その結果、1000キロワット出力を長時間連続で安定に維持し、かつ長期間の運転に耐える性能を実現できる見通しが立ち、イーター・ジャイロトロン実機の設計に反映して初号機、二号機の製作を完了させました。
また、この成果は核融合研究開発だけでなく、高出力マイクロ波エネルギーを利用したセラミクス焼結や製鉄、プラズマプロセス技術への応用、ロケット推進研究などにも貢献するものです。
 

研究開発の背景と目的

核融合を起こすためには、プラズマ生成や数億度までのプラズマ加熱、及び高温状態の長時間維持が必要であり、それら全てを行うことのできる加熱方式として、周波数が100ギガヘルツ(GHz)帯、パワーが数万キロワットのマイクロ波をプラズマに入射する方式が考えられています。その高出力マイクロ波を発生する装置がジャイロトロンです(図1)。
イーターでは、1000キロワット出力運転できるジャイロトロンが要求されており、量研とTETDで協力してジャイロトロン開発を進め、2006年に最大出力1000キロワットで長時間動作が可能なジャイロトロンの開発に世界で初めて成功しました。しかし、イーターでは、ジャイロトロンを数分から最大1時間というこれまでの核融合実験装置では経験したことのない長時間動作で、十年以上にわたって運転することを計画しています。そのため、高出力で長時間連続で安定に運転でき、かつ長期間運転に耐えるジャイロトロンの開発を進めてきました。

(図1)イーター・ジャイロトロン(左)とジャイロトロン構成図
図1 イーター・ジャイロトロン(左)とジャイロトロン構成図(右)
 

研究の手法

ジャイロトロンでは、超伝導磁石の作る強磁場中で電子ビームを加速し、その心臓部である円筒形状の空洞に入射し、そこで電子ビームの回転エネルギーをマイクロ波に変換して出力します。ジャイロトロンの最大出力は、主に空洞における内壁への入熱によって制限されます。また、空洞での安定したマイクロ波発生には、その内径を0.01ミリメートルの高い精度で製作する必要があります。一方、許容以上の熱負荷が空洞に生ずると発熱により空洞形状に歪みが生じ、安定したマイクロ波発生を維持できなくなることから、空洞の熱負荷はできる限り低く抑える必要がありました。そこで、空洞の設計計算を進め、従来の空洞内径を15%ほど大きくする(内径17.90ミリメートルから20.87ミリメートルに変更)ことで熱負荷を低く抑え、1000キロワット出力時でも空洞内壁の発熱による変形を抑えることができる設計に変更しました。しかし、空洞内径を変えたことにより170ギガヘルツのマイクロ波の発生を阻害する異なる周波数のマイクロ波が発生し、ジャイロトロンの性能を低下させるという問題に直面しました。そこで、電子の運動エネルギーをコントロールできる三極型電子銃5)を持つジャイロトロンの特徴に注目し、マイクロ波を発生させる初期、又は発生途中に電子ビームの大きさや、電子の回転運動エネルギーと進行運動エネルギーの比(ピッチファックターという)を制御し、従来よりも電子ビーム径を大きく、かつピッチファクターを緩やかに増加させることで異なる周波数のマイクロ波の発生条件を避けて、安定して170ギガヘルツのマイクロ波を発生させることに成功しました。
 

得られた成果

ジャイロトロンの耐久性向上を目的とした新設計の性能を図2(a)に示します。これは、空洞の熱負荷密度を約30%低減するもので、この設計を適用したプロトタイプ試験で170ギガヘルツ、1000キロワット出力での定常運転実現を見通せる300秒連続、電力効率50%(ジャイロトロン運転に必要な電力に対する出力比)の運転に成功し(図2(b))、新設計を適用したイーター・ジャイロトロンの開発目的を達成しました。そして、この設計をイーター・ジャイロトロン実機設計に取り入れ、初号機、二号機の製作を完了させました(図3)。

(図2)(a)新設計による空洞共振器壁の熱負荷密度の低減と(b)1000キロワット出力・長時間運転、及び電力効率50%での出力
        (a)                       (b)
図2(a)新設計による空洞共振器壁の熱負荷密度の低減と
  (b)1000キロワット出力・長時間運転、及び電力効率50%での出力

(図3)ジャイロトロン開発の進展と今回の成果
図3 ジャイロトロン開発の進展と今回の成果

今後の予定

今回、製作が完了したジャイロトロンは、日本が納める8機のうち1機及び2機目となるものです。今後、量研内にてこれらの慣らし運転を実施し、2019年にイーターサイトへ輸送する計画です。図4左は、マイクロ波による加熱装置の全体構成を示しており、ジャイロトロンは組立棟に隣接したRF建屋と呼ばれる建物内に設置されます。図4右上は、RF建屋内における日本のジャイロトロンの設置概略を示し、右下は2017年2月時点でのRF建屋及びイーターサイトの建設状況を示したものです。また、残りの6機についても順次製作を進め、2022年までに全てのジャイロトロンをイーターサイトへ輸送する予定です。
(図4)プラズマ加熱装置の全体構成(左)、日本のジャイロトロン設置(右上)、及びイーターサイトの建設状況(右下)
図4 プラズマ加熱装置の全体構成(左)、日本のジャイロトロン設置(右上)、
   及びイーターサイトの建設状況(右下)

用語解説

1) 国際熱核融合実験炉イーター
制御された核融合プラズマの維持と長時間燃焼によって核融合の科学的及び技術的実現性を実証することを目指したトカマク型(超高温プラズマの磁場閉じ込め方式の一つ)の核融合実験炉です。1988年に日本・欧州・ロシア・米国が共同設計を開始し、2005年に南フランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設することが決定しました。2007年に日本、欧州連合、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7極が加盟する国際協定が発効し、国際機関「イーター国際核融合エネルギー機構(イーター機構)」が発足しています。イーター計画は、各極が機器を調達・製造して持ちより、イーター機構が全体を組み立てる仕組みです。現在、イーターが格納される建屋の建設が進められており、各極が調達する、イーターを構成する様々な機器の調達取決めが、順次締結されて、各極で機器の製作が進められています。各極の貢献(必要な機器の調達や人事派遣等)は、国内機関を指定して実施するものとされ、日本においては量研が文部科学省から国内機関に指定されています。イーターは、2025年頃からのプラズマ実験の開始を目指しています。イーターでは、重水素と三重水素を燃料とする本格的な核融合による燃焼が行われ、核融合出力50万キロワット、エネルギー増倍率10を目標としています。
イーター計画に関するホームページ http://www.fusion.qst.go.jp/ITER/index.php (日本語)
イーター機構のホームページ  http://www.iter.org/ (英語)

2) ジャイロトロン
磁場に巻き付いた電子の回転運動をエネルギー源として、高出力のマイクロ波を発生させる大型の電子管です。ジャイロトロンの名は、磁場中の回転運動(ジャイロ運動)に由来します。高出力のマイクロ波は、核融合炉内の燃料(水素の同位体ガス)へ入射することにより、プラズマ点火や、効率よく核融合反応が起こる温度への加熱、プラズマ中で発生した乱れの抑制のためなどに用いられます。

3) ギガヘルツ(GHz)
「ギガ」は109を意味します。「ヘルツ」は周波数の単位で、1秒間の変動数を意味します。電子レンジでは2.45ギガヘルツのマイクロ波が用いられています。

4) 空洞共振器
中空の導体壁に囲まれた空間を利用したマイクロ波発生回路です。ジャイロトロンでは、円筒状の空洞共振器を有しており、ここで、電子の回転運動エネルギーの一部をマイクロ波に変換します。

5) 三極型電子銃
電子ビームを引き出す電極として、陰極、陽極の他に引き出し電極(電子の引き出し電位を制御する電極)の合計3つの電極を持つタイプの電子銃を三極型と呼びます。陰極、陽極の2つしか持たない二極型も存在します。二極型電子銃は電極数が少ない分構造が簡単になります。一方、三極型電子銃では引き出し電極の電位を任意に制御できるため、電子の全運動エネルギーに対する回転運動エネルギー比率(電子のらせん軌道の巻き具合)を制御することができる特徴を持ちます。

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