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プレスリリース

1-J その他の分野2018/02/20

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認
~新しい“高精度線量イメージング機器”への応用に期待~

概要
 

 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授、小森雅孝准教授、矢部卓也大学院生は、名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士、量子科学技術研究開発機構(量研)高崎量子応用研究所の山口充孝主幹研究員、河地有木プロジェクトリーダーと共同で、粒子線照射で生じる水の発光が、照射する放射線の線量1を反映することを実証しました。
 山本教授らは、これまでに陽子線が水中で微弱光を発することを発見し、この光を高感度カメラで撮像することで、陽子線が水に与える線量と類似の分布を画像化できることを報告しました。しかし、得られた画像と線量分布との間に、少し違いがありました。今回、この違いが陽子線照射によって水中に生じる即発ガンマ線2の発光に起因することを発見し、その成分を補正することにより、線量と一致する発光分布を得ることに成功しました。
この成果に先立ち、本研究グループは、名古屋大学大学院医学系研究科の小山修司准教授、同大学大学院工学系研究科の渡辺賢一准教授、平田悠歩大学院生との共同において、陽子線及びX線照射による水の発光が、エネルギー直線性を有することを確認しました。エネルギーの異なる陽子線及びX線を水に照射したときの発光量とエネルギーの関係を実験で確認し、発光量がエネルギーとともに増加することを実証しました。発光が、不純物や温度の影響をほとんど受けないことも併せて確認しました。
 これらは、放射線照射による水の発光現象が“高精度線量イメージング”に利用できることを示す画期的な成果です。今後、メーカーと協力し、日本発、世界初の高精度線量分布測定装置として実用化を進めていく予定です。
 

 

ポイント


 山本教授らの研究グループは、これまでに陽子線が水中で微弱光を発することを発見し、この光を高感度カメラで撮像することで陽子線が水に与える線量と類似の分布を画像化することに成功しました。しかし、得られた画像と実際の線量分布との間に、わずかですが違いがありました。今回、この違いが、陽子線照射によって生じる即発ガンマ線が水中で発光することによるものであることを明らかにし、その成分を補正することで、線量と一致する分布を得ることに成功しました。この成果に先立ち、陽子線やX線による水の発光が、放射線のエネルギーに対して直線的に増加することも明らかにしました。さらに、この発光が不純物や温度の影響をほとんど受けないことも併せて確認しました。これらの成果は、放射線照射による水の発光現象が“高精度線量イメージング”に利用できることを示すものであり、今後、日本発、世界初の高精度線量分布測定装置としての実用化が期待されます。
 

背景


 陽子線治療3は、陽子線が選択的に高線量を腫瘍に与えることが可能なことから注目を集めています。陽子線施設においては、システムの精度管理のために電離箱4を水中に配置し、動かしながら線量分布を測定しています。この方法は測定に時間と労力を要するため、簡便で精度の高い線量分布計測法が切望されています。線量分布測定は、診療用X線撮像装置や治療用X線、電子線装置でも同様に、簡便で精度の高い線量分布手法が必要とされています。
 山本教授らの研究グループは、これまでに陽子線が水中で微弱光を発することを発見しました。この発光は、これまで知られていたチェレンコフ光5が生じない条件で発光する全く新しい現象であり、世界的な注目を集めています。この発光を高感度カメラで撮像することで陽子線が水に与える線量と類似の分布を画像化できることも明らかにしていました(図1)。



 

図1 陽子線照射による水の発光画像(左)と光学写真との融合画像(右)



 
 しかし、得られた発光画像と実際の線量分布との間に、わずかですが違いがありました。この違いが、発光自体の性質によるものなのか、あるいは別の原因で起こるものなのかについては、これまで不明であり、線量分布計測に応用する上での妨げとなっていました。また、発光が放射線のエネルギーに比例して増加するのか、あるいは、チェレンコフ光のように非直線的に変化するのかも不明でした。さらに、発光が不純物や温度などの影響を受けるのかも不明であり、これらも線量分布計測に応用する上での妨げとなっていました。



 

研究の内容


 山本教授らの研究グループは、この違いが、陽子線照射によって生じる即発ガンマ線の水中での発光によって生じるのではないかと考えました。即発ガンマ線は陽子線照射により生じる高エネルギーのガンマ線で、水の中でチェレンコフ光などを発生することが考えられます。そこで、量子科学技術研究開発機構(量研)高崎量子応用研究所で行ったシミュレーションにより即発ガンマ線の分布を求め(図2左)、その分布を発光画像から差し引くことを試みました。その結果、線量と同じ分布を得ることができました(図2右)。シミュレーションで分布を得る方法以外に、画像周辺の分布を用いる補正法でも、線量と同じ分布を得ることができました。



図2 補正前の陽子線照射発光の深度線量分布と即発ガンマ線による発光の分布(左)
          補正後の深度線量分布(右)


  この成果に先立ち、山本教授らの研究グループは、陽子線やX線による水の発光が、放射線のエネルギーに対して直線増加することも明らかにしました。これまで発光が知られていたチェレンコフ光は、放射線のエネルギーが一定以上の時に発生し、また、その発光量はエネルギーに対して非直線的に増加することが知られています。この性質は、チェレンコフ光を線量測定に用いる際の大きな妨げとなっていました。山本教授らの研究グループが発見した放射線照射による水の発光が、エネルギーに対して直線的に増加することが確認できれば、線量測定に利用できることになります。そこで、陽子線とX線に対して、エネルギーを変えながら、直線性を評価しました。その結果、陽子線、X線ともにエネルギーに対して直線的に発光が増えることが明らかになりました(図3)。さらに、発見した発光は不純物や温度の影響をほとんど受けないことも確認しました。


 

図3 陽子線のエネルギーと発光量の関係(左)とX線のエネルギーと発光量の関係(右)



 
 

成果の意義


 今回の成果から、山本教授らの研究グループが発見した放射線照射による水の発光現象は、チェレンコフ光とは全く異なり、線量分布を表すことが明らかになりました。これは、放射線照射による水の発光現象が“高精度線量イメージング”に利用できることを示す画期的な成果です。今後、メーカーと協力し、放射線照射による水の発光現象を用いた日本発、世界初の高精度線量分布測定装置の実用化を進めていく予定です。




 

用語説明

  1. 線量:放射線が生体に与えるエネルギー量の単位。通常は、生体を水の仮定し、水に対して放射線が与えるエネルギーを線量(吸収線量)としている。
  2. 即発ガンマ線:陽子線や炭素線などが水などの物質に入射したときに、物質との核反応などにより放出されるガンマ線。
  3. 陽子線治療:陽子を加速し、患者の腫瘍に照射することで治療を行う放射線治療の一種。線量を腫瘍に集中して与えることができるため、治療効果が大きい。
  4. 電離箱:放射線による空気の電離で発生するイオンを計測する方式の放射線検出器。安定性が高く、放射線機器の線量測定では最も信頼性の高い検出器として広く用いられているが、一度に一点の線量しか測定できない問題点がある。
  5. チェレンコフ光:電子などの電荷をもつ粒子が、水などの物質中を運動する時、粒子の速度が物質中の光の速度よりも速い場合に発生する光。チェレンコフ光が発生するためには、一定以上のエネルギーが必要とされる。


 
 


 
 



 

 

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