ご挨拶
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
量子エネルギー部門長(量子エネルギー・理工学領域長)
池田 佳隆
量子科学技術研究開発機構(「量研」と略す)は、2016年4月に放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の量子ビーム部門と核融合エネルギー部門が合併して、量子技術を人々の幸福につなげる研究開発機関として発足しました。具体的には、人々の幸福を実現する基本要素である、「いのち」、「生活」、「エネルギー」に貢献することを目的としています。
当部門は、太陽等の恒星の輝きに見られる自然界の根源的なエネルギー発生機構として知られている「核融合」反応を、地上で効率良く実現し電力を生み出す装置の研究開発を行っています。
1950年代から世界中で始まった核融合の研究は、約半世紀の試行錯誤を経て、1990年代には発生パワーが投入パワーと超える条件をクリアしました。2022年現在、発電装置として必要とされる条件、即ち発生パワーが投入パワーの20倍以上を実現出来る装置の見通しも得られる段階になっています。温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないことから地球環境に調和し、安全性にも優れ、枯渇することのない極めて優れたエネルギー源と言えます。
核融合エネルギーを電力生産に繋げる現実的な装置の型名は、「トカマク型プラズマ核融合装置」と呼ばれる方式です。1950年頃に旧ロシアで発明された「トカマク」型というドーナッツ状の高温プラズマ中で、重水素・三重水素の核融合反応を起こす方法で、既に最初の発電炉の設計が提案され、21世紀半ばまでの実現を目指しています。
現在、50万キロワットの核融合エネルギーの発生を世界で初めて実証するため、トカマク型実験炉ITER(イーター)を、日本、欧州、アメリカ、ロシア、韓国、中国、インドによる国際共同建設プロジェクトを南フランスで進行中です。当部門那珂研究所は、この装置の主要最先端機器の調達を担当しています。
また、発電炉の早期実現を目指し、日欧共同で「核融合エネルギー研究分野における幅広いアプローチ(BA)活動」を実施しており、ITERのほぼ半分のサイズの超伝導トカマク型実験装置JT-60SA(Super Advanced)を那珂研で建設しており、2022年度内に実験を開始する予定です。JT-60SAは三重水素を使わないので、核融合エネルギーの発生はしませんが、ITERの高温プラズマ条件の予測実験などを行い、ITERを先導する予定です。BA活動として当部門六ヶ所研究所では、「国際核融合エネルギー研究センター事業」及び「材料照射施設の工学実証・工学設計活動」の2つのプロジェクトを実施しています。発電炉では、発生した中性子を熱に換えると同時に三重水素をリチウムから再生産する「ブランケット」と呼ばれる機構が必要不可欠ですので、その総合的な研究開発は、六ヶ所研で実施しています。
今後も研究開発を加速し、核融合発電の早期実現を目指します。引き続きのご支援を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
(核融合エネルギー部門は、2021年10月1日付けで、量子エネルギー部門に名称を変更しました)