加速器工学部では、エネルギー規模で、MeV級の静電加速器、数十MeV級のサイクロトロン、数万MeV級の重イオン加速器の運転維持管理を行い、陽子からキセノンまでの数多くのビーム、またミクロンから数十cmのビーム領域をカバーする安定的で信頼性の高いビームを加速、供給しています。このようなイオンビームは、マイクロビームや中性子による生物学的放射線応答の研究、がん診断でお馴染みの放射性同位元素を生産、高エネルギー炭素線によるがん治療などに応用されています。我々は、これらの用途に応じた加速装置、ビーム制御装置などのハードウエアの研究開発だけではなく、腫瘍や正常組織に対する生物学的効果を考慮した治療ビームの生成やその制御など、ソフトウエアの研究開発も行っています。このような研究やそこで開発された技術は、実際のがん診断や粒子線がん治療などの目に見える形で国民生活の向上に役立っています。
研究テーマ
重粒子線がん治療装置HIMAC
HIMACとは、"Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba"の略で、世界初の重イオンがん治療専用施設です。HIMACは、炭素線をはじめとする重粒子線を核子あたり800 MeVのエネルギーまで加速するための主加速器(シンクロトロン)・入射器(線形加速器)と、患者さんに照射するための治療室で構成されています。
HIMAC模型図
治療室E
オンデマンド治療に向けたスキャニング照射の高度化
さらなる治療の高度化、患者さんの負担軽減などを実現するため「新治療研究棟」を建設し、2011年5月から3次元スキャニング照射による治療を開始しました。2015年3月には、呼吸同期3次元スキャニング照射治療を開始し、世界に先駆けて、肺など呼吸性移動を伴う領域に対するスキャニング照射を実現しています。また、2016年1月には、重粒子線を360°任意の角度から照射が可能な回転ガントリーを完成しました。これにより、患者さんの身体的負担の更なる軽減や治療時間の短縮、より一層の治療効果の向上が期待されます。
ガントリーイラストと治療室
重粒子線がん治療の普及に向けて
2005年度に終了した重粒子線がん治療装置の小型化のための研究開発により、HIMACと同等のビーム性能を、HIMACの3分の1程度の大きさで実現することができました。放医研は、この小型装置を用いた重粒子線がん治療を全国に普及されるために、2006年度、重粒子線がん治療装置の建設を開始した群馬大学に技術的な支援を行うとともに、重粒子線治療医や診療放射線技師、医学物理氏等の人材育成の中心的な役割を担いました。
小型重粒子線がん治療装置1号機が群馬大学で2010年3月に治療を開始しました。その後、2013年8月には2号機が佐賀県に、2015年12月には3号機が神奈川県に、2018年10月には4号機が大阪に拡がっていきました。
2020年には5号機が山形県で治療開始予定です。
静電加速器を用いる照射・分析技術の開発、産業活用へのサポート
放射線医学総合研究所は、元素分析と陽子線マイクロビーム細胞照射用、及び中性子線発生用の2台のタンデム型静電加速器を有します。
本施設で行われている研究の進捗と共に利用者からは様々な要望が寄せられ、それを基にした新規技術の開発を行い、実現しています。PIXE技術を発展させて分析できる元素の範囲を拡充、細胞照射の速度や照射範囲の向上、エネルギー幅の小さな中性子場の開発はその成果の一端です。
これらの成果と積極的な広報活動により、近年では国内外の大学・研究機関だけでなく産業界の利用希望件数も急増しています。当施設は今後も科学の発展に寄与する新たな技術開発に積極的に取り組んでいきます。
SPICE照射室、ビームライン
SPICE(マイクロビーム細胞照射装置)の外観。上図は照射室、下図はビームライン。2μmのビームサイズで細胞皿あたり10000個の細胞に照射可能。
PIXE分析グラフ
NIST SRM2783標準試料のPIXE分析の結果。赤字が新たに分析できるようになった軽元素。
これら以外にFやU等の元素分析も可能になりました。
サイクロトロン加速器の高度化研究
サイクロトロンは、放射性同位元素(RI)の生産や、物理・生物分野の基礎的研究に利用されています。RI生産では、分子イメージング用RIに加え、標的アイソトープ治療用RIが創薬研究のために生産されています。充分な量のRIを生産するためには、高品質な大強度ビームの安定的供給が要求されます。そこで、ビームの大強度化技術や、大強度ビームの照射および診断技術の開発など、サイクロトロンの高度化を目指した研究を行っています。
また、サイクロトロンで生産したRIを重粒子線がん治療に応用することで、照射精度のさらなる向上を図る研究にも取り組んでいます。そのためのRIビーム生成システムの開発を進めています。
サイクロトロン
RI生産用ターゲットシステム
研究グループ
- 先進粒子線治療システム開発グループ
- 治療ビーム研究開発グループ
- 治療システム開発グループ
- 粒子線照射効果研究グループ
- 照射システム開発グループ
- 重粒子運転室
- サイクロトロン運転室
- 静電加速器運転室