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量子医学・医療部門

放射線影響研究の概要インタビュー

掲載日:2020年3月16日更新
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「じわじわ」被ばくへの不安に科学的知見で応える

インタビュイー2名

柿沼志津子(放医研 放射線影響研究部長:左)

今岡達彦(放医研 放射線影響研究部 幹細胞発がん研究グループリーダー)

 

放射線影響研究では、どのくらいの放射線が体にどのような影響を及ぼすかを明らかにする研究を行っています。原爆被害者の方を対象とする調査データから、一度にたくさんの放射線を浴びる高線量率被ばくでは発がんリスクが高くなることが知られていました。しかし、長期間にわたって少量ずつ放射線を浴びる低線量率被ばくの場合には、がんの発生率の増加が小さいため、被ばくが発がんリスクにどれだけ影響するのか、まだよくわかっていません。

そのような中で、2011年に東京電力福島第一原子力発電所事故があり、低線量率被ばくの影響を心配する声が高まりました。一方、医療の現場では、子どもの検査・治療にもX線やCTスキャンなどの医療放射線が使われる機会が増えています。医療放射線被ばくも一種の低線量率被ばくであり、一部の患者さんやその親御さんたちに「将来、がんを発症するかもしれない」という不安を与えていました。

こうした背景から、私たちは現在、低線量率被ばくによる発がんリスクや、そのメカニズムの解明に注力しています。2016年より、特定のがん原因遺伝子に変異があり、がんを発症しやすくしたマウスや、普通のマウス、ラットに、さまざまな線量率の放射線を、さまざまな発育段階で照射し、長期間飼育して発がん影響を調べています。

組織切片の薄切と病理観察

​最近の成果としては、低線量率被ばくによる乳がん発症リスクの研究があります。被ばくした総量は同じ(4グレイ)でも、時間当たりの線量によって乳がんの発症リスクが異なることを確認しました。乳腺は放射線の影響を受けやすい臓器の一つです。放射線を照射していないラットに比べて、毎時60ミリグレイを照射されたラットでは明らかに乳がんが増えますが、毎時24ミリグレイ以下ではほとんど増加しませんでした。国際的な「低線量率」の定義は毎時6ミリグレイ以下ですので、現実に被ばくする可能性のあるもっと低線量率での被ばくの影響はさらに少ないということが示唆されました。また、毎時6ミリグレイずつ照射した場合は、子どもより大人のラットの影響が小さいことを確認しました。今後は乳がん同様に放射線の影響を受けやすいといわれている大腸がん、肺がん、血液腫瘍、子どもに多いがんとして甲状腺がん、脳腫瘍などについても順次研究を進める予定です。

被ばくした総量は同じでも低線量率被ばくの方ががん発症リスクは低い――そのメカニズムを明らかにするために、がんやその元になる幹細胞の遺伝子変異についても研究しています。幹細胞は自ら分裂して増幅する能力があり、さまざまな臓器になることができる細胞です。ところが、何らかの遺伝子の異常(遺伝子変異)によりコントロールを失い際限なく分裂・増殖が進むとがん化するリスクがあります。そこで私たちは現在、遺伝子を網羅的に分析することができる「次世代シーケンサー」を用いて、放射線によるがんを発症したマウスの幹細胞特有の遺伝子変異を調べています。

次世代シーケンサー

動物実験の結果がそのままヒトにも当てはまるとは言い切れませんが、ヒトでの影響を考える上で大変参考になります。この様な研究から、従来は分からなかったことを科学的に、できるだけ分かりやすい形で説明できるデータを提供し、被ばくによる健康影響に対する国民の皆さまの不安に科学的知見で応えていきます。また、これらのデータを原子力や放射線の規制や管理について国際的に勧告を行っている「国際放射線防護委員会(ICRP)」にも提供することで寄与していきます。

私たちは、被ばく後のがんの発症の予防についても研究しています。どのようなことを積極的にすれば、被ばく後の発がんリスクの低減につながるかを動物実験で調べており、例えば被ばくしたマウスにカロリー制限を行うとがん発症リスクが下がることが分かりました。放射線事故や原子力災害、医療放射線などでの被ばくへの不安を軽減し、安心して生活していただくために、このような選択肢を数多く提供し、社会に還元することを目指しています。

インタビュイーの2名

*所属・役職はインタビュー当時(2019年10月23日)のもの

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