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量子医学・医療部門

放射線防護研究の概要インタビュー

掲載日:2020年3月16日更新
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安心して暮らせる将来のために、身の回りの放射線を科学する

インタビュイーの2名

神田玲子(放医研 放射線防護情報統合センター長:左)

田上恵子(高度被ばく医療センター 福島再生支援研究部 環境移行パラメータ研究グループリーダー:右)

​約120年前にX線が発見されて以来、放射線は医学の進展に大きく貢献しました。一方で、放射線による障害が発生することもわかり、医療従事者を放射線のリスクから守るための対策が求められました。これが「放射線防護研究」の始まりです。放射線防護の対象は(1)公衆、(2)職業上被ばくする原子力発電所や病院などの職員、(3)放射線治療や検査により被ばくする患者の3つがあります。

そのうち(1)の分野に関しては、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、原発事故)以降、特に注力しています。もともと放射線は自然界にもあり、私たちは大地や宇宙からも放射線を浴びています。原発事故以降は、放射線の存在が改めて広く認知されるようになり、原発事故を起因とする環境・食品からの被ばくについてより詳しい分析が求められるようになりました。QSTが過去に集めていた福島の土のサンプルと比べたところ、内部被ばくした場合の生体への影響が特に懸念されるプルトニウム濃度自体は、事故前後で大差ありませんでした。大気圏内核実験による放射性降下物1が今も土に残っているのです。

しかし起源がなんであれ、プルトニウムから我々は被ばくしないのか、という疑問が残ります。1kgの土の中に1Bqのプルトニウムが検出されることがしばしばあり、その千分の一を1kgの作物が吸うと、作物中濃度は1ミリBq/kgになりますが、原発事故当初はそのような極微量を測る技術が無く、測定結果は「検出限界未満」となっていました。実際には、土の中の何分の1が植物に吸われるのかも不明で、より精度の高い分析が求められていました。そこでQSTでは作物試料からプルトニウムをきちんと分離し、さらに濃縮できる技術を加えて、微量のプルトニウムを測定する技術を開発。その結果、プルトニウムが作物に移動するのは土の濃度のわずか1万~10万分の1にすぎないことを明らかにしました。

質量分析装置

​ところで、日本では2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が定められました。原子力発電所から出る放射能レベルの高い廃棄物は300m以深に埋める「地層処分」の対象になっています。放射性物質には半減期※2があり、地中に埋めた廃棄物は時間がたてば放射能が弱まります。しかし、核分裂の際に6%程度生成されるセシウム135は半減期が長く、将来的に地層の変化や地下水脈の影響でどう動くかが懸念されています。

そこで、世界で唯一となるセシウム135の測定技術を開発したり、原発事故で放出されたセシウム137を丹念に調べることで、将来の被ばく予測につながる研究も行っています。このように、長期的に福島原発事故後の分析を続け知見を蓄積することにより、国民の皆さまの不安を払拭し、安心して生活できるよう情報提供したいと考えています。

もちろん、日常生活での放射線防護も重要なテーマです。職業被ばくの分野(上述(2))では、白内障のリスクを防ぐために水晶体の受ける等価線量3限度の引き下げが国際放射線防護委員会(ICRP)から勧告されたことを受け、線量測定方法などの研究を進めています。一方、医療従事者の被ばくについては、量研が提唱した「医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)」が協力して、医療従事者が適正に管理するように啓発活動を実施しています。

​患者さんの医療被ばく(上述(3))については、検査で被ばくすることによる将来のリスクよりも、今、病気を診断して治療する便益の方が大きいと判断されて検査が行われることから、検査に用いる放射線の線量限度は定められていません。しかし、長寿社会となる中、医療被ばくによる患者さんの将来のリスクを鑑み、2019年3月に公布された改正医療法では、放射線検査による患者さんの被ばく線量を医療機関で管理することが初めて明文化されました。

CT検査の様子

このような法制度の整備に当たって、QSTは科学的根拠となるデータの提供や専門家の派遣などを行い、適切な対策をオールジャパン体制で推進する際のまとめ役、情報のハブとして貢献しています。放射線防護の研究は、自然科学のみならず、社会科学など幅広い視点からの情報の集積が求められ、世界各国の考え方を尊重しつつ国際的に足並みをそろえて進める必要があります。QSTの研究は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)やICRPの報告書等に科学的根拠として引用されており、国際的に注目されています。

インタビュイーの2名

*所属・役職はインタビュー当時(2019年11月12日)のもの

用語解説

※1 グローバル・フォールアウトともいう。大気圏核実験が盛んに行われていた時代に環境中に放出され、気流に乗って地上表面に降下した人工放射性物質を指す。フォールアウトの量は部分的核実験が禁止される1963年以降は減少したが、長半減期のプルトニウム、ストロンチウム90、セシウム137は現在でもわずかながら土壌中に残存している。

※2 放射性物質の放射能が弱まり、初めの半分となるまでの時間。放射性物質の種類によって異なり、セシウム134は2年、セシウム137は30年、セシウム135は230万年。

※3 放射線の種類やエネルギーによって吸収線量が同じでも人体への影響の大きさは異なるため、放射線の種類ごとに影響の大きさに応じた重みづけをした線量。単位はシーベルト(Sv)

 

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