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分子イメージング診断治療研究の概要インタビュー

掲載日:2020年3月16日更新
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治療の難しいがんに、放射性医薬品という新たな選択肢を

インタビュイーの2名

東達也(放医研 分子イメージング診断治療研究部長:左)

張明栄(放医研 先進核医学基盤研究部長:右)

 

がんの放射線治療には体の外から放射線を照射してがんを攻撃する外照射治療と、放射線を出す物質(放射性同位体)を注射し、体内からがん細胞に直接放射線を照射する内照射治療があります。近年、放射性同位体をがんに選択的に集まる性質をもつ抗体や化合物などに載せた放射性医薬品を用いた、新しい内照射治療として「標的アイソトープ治療」が注目されています。

この技術は、PETなどを用いてがん特有のタンパク質などの物質の動きや働き、代謝などを観察する「分子イメージング技術」から発展しました。がんの画像診断はもちろん、放射性同位体の種類によってはがん細胞の攻撃にも使うことができます。QSTでは放医研時代の2005年に国内で初の分子イメージングセンターを開設。最新の画像診断技術として研究開発を進めてきましたが、2016年に現・QSTへの移行を機に治療への応用を本格化しました。

QSTでは、2018年7月から国立がん研究センターで第I相臨床試験(治験)が行われている悪性脳腫瘍に対する標的アイソトープ治療に、64Cu-ATSMを製造・供給しています。QSTが日本初の標的アイソトープ治療薬候補として開発した64Cu-ATSM は、元は62Cu-ATSMというPET診断薬で、悪性脳腫瘍によく集積する場合があることがわかっていました。62Cu-ATSMを用いた治療前診断により薬剤が脳腫瘍に集積するかを確認して、64Cu-ATSMによる標的アイソトープ治療を行うこともできます。

放射性薬剤を製造するホットラボ内の様子

また、外来でも安全に使え、がん細胞を死滅させる効果が高い粒子線の一種「α線」を利用した標的アイソトープ治療薬候補の開発にも注力しています。α線は電子の7200倍の重さでがん細胞を攻撃しますが、飛距離はがん細胞2~3個分とごく短い範囲にとどまるため、β線よりも安全性に優れています。入院せずに外来診療で治療を受けられること、がん細胞周辺の正常細胞への影響が少ないため副作用が少ないことが期待されます。

既に前立腺がんでは「ラジウム223」(223Ra)を用いた放射性医薬品が実用化され保険適用となっていますが、QSTではα線標的アイソトープ治療を治療選択肢が少なく、治療の難しいがんの治療に活用するべく研究を進めています。現在の目標は「滑膜肉腫」の治療です。滑膜肉腫は皮下や筋肉に生じる悪性軟部肉腫の一種です。若年層に多く、全身に発症し肺やリンパ節への転移も多いため治療は困難で、5年生存率は45~70%にとどまっています(国立がん研究センター 小児がん情報サービス)。また腕や脚への発症が多く、術後のQOL(Quality of Life:生活の質)の低下を伴うなど、心身両面で患者の負担が大きいがんの一つです。

グローブボックス内で放射性薬剤を分注する様子

まず、2016年にα線を放出する放射線同位体「アスタチン211」(211At)の製造に成功しました。2018年6月には国立大学法人徳島大学、公益財団法人がん研究会と共同で新しい放射性医薬品の候補となる「211At標識抗FZD10抗体」の開発に成功。マウスを用いた実験では、β線を用いた抗体(90Y標識抗FZD10抗体)よりも効果が高く、副作用も少ないという研究結果が得られました。今後は転移のある膵臓がん、前立腺がん骨転移の末期の患者さんへの治療に対象を広げて標的アイソトープ治療の可能性を追求していきます。

標的アイソトープ治療の開発は、それぞれのがんに合った放射性同位体を作るための製造技術が肝となります。放射性同位体はこれまで海外からの輸入に依存していたため価格が高く、安定的な供給を得ることが困難でした。QSTでは国産の核種製造を目指し、これまでに35種の放射性同位体の開発に成功しており、製造技術力においては世界トップを誇ります。放射性物質である以上、製造過程における安全性の確保も極めて重要ですので、製造は全て自動化しました。安定した品質とともに安全性の高い製造技術の開発を進めています。

がん病巣部の治療は重粒子線で、全身に転移したがんには標的アイソトープ治療を用いることで、体にメスを入れず、患者さんにとって負担の少ないがん治療を実現する――それが、QSTが目標とする将来のがん治療の姿です。

実験の進捗について話し合うインタビュイーの2名

*所属・役職はインタビュー当時(2019年10月23日)のもの

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