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量子医学・医療部門

分子イメージング診断・治療研究 インタビュー (永津弘太郎 研究統括)

掲載日:2020年4月1日更新
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技術と経験を駆使して、新たな放射性核種(RI)を作り出す

QSTで研究を進めている「標的アイソトープ治療」に欠かせないのが、放射性核種(RI)の製造だ。分子イメージング診断治療研究が本格化した頃に放医研に入職して以来、10年以上にわたり一貫してRIの研究と製造に打ち込んでいる永津弘太郎に話を聞いた。​

インタビュイー

永津弘太郎(放医研 先進核医学基盤研究部 放射性核種製造グループ 研究統括)

RIの開発・製造とは、どのようなお仕事なのですか?

​加速器を使って診断や治療に必要なRIを自在に作り、医療の現場で使ってもらうことに取り組んでいます。加速器とは、電気エネルギーを小さい粒子の運動エネルギーに変える機械です。粒子を光の速さの2~3割程度まで加速して強いエネルギーを与え、ターゲットとなる物質に当てると、核子1がはじき出されることにより、その物質がRIに変わります。料理に例えるなら、食材を火にかけると甘みやまろやかさなど素材の味が引き出されるのと同じです。

QSTには1974年製の大型の加速器があり、私たちは改良を加えながらRIを製造しています。ターゲットとなる物質の選び方と加速器の使い方を選ぶことで、現在は35種類のRIを作り分けることができます。私たちは効率的なRI製造方法の開発に取り組みつつ、1年に1~2種類のペースで新しいRIを実利用できるようにしています。

がん細胞特有のタンパク質やホルモンを標的に結合する抗体と線源を組み合わせて一つの薬にするのが核医学の王道です。さまざまなRIがあれば、知識とアイデアで新しい薬ができる可能性があります。それはがん患者さんの治療選択の幅を広げ、核医学全体のレベルアップにつながります。重粒子線治療など体外から照射するがん治療法に比べて開発に時間がかかるなど難しさもありますが、外照射での治療が難しい症例に対処出来るほか、研究としての奥深さもあります。

最近アクチニウム225(225Ac)の加速器での製造に成功されたそうですね。

従来の画像診断やがん治療には主にγ線やβ線が利用されており、225Acのようなα線を放出する、質量数が200番台の元素は核医学の中ではほとんど使われていませんでした。しかしα線はより細胞殺傷力が高いので、標的アイソトープ治療への活用が期待できます。近年は、前立腺癌特異的膜抗原(PSMA)を標的とした225Acを用いた前立腺がんの標的アイソトープ治療(225Ac-PMSA)が注目を集めています。日本では、前立腺癌に対するロボット手術や重粒子線治療など優れた治療方法が確立していますが、こうした治療が普及していない海外での225Ac-PMSAの活用が予測されます。

現在市場に出回っている225Acは、トリウムという核原料物質をもとにしたものですが、その量が限られるため225Acの製造量を増やすことができず、簡単には購入できない状況です。そこで、私たちはラジウム226(226Ra)を原材料にした、加速器による225Acの独自の製造法を開発しました。225Acの実践的な製造については、すでに企業も参画し、千葉県内に工場が作られて、計画が大きく進んでいます。

放射性物質ですから半減期があり、輸送に時間がかかると効果が失われてしまいますが、225Acは半減期が10日とRIの中でも比較的長く、海外への輸送にも耐え得る寿命があります。225Acを製造・提供できる施設は世界に数施設しかないため、輸出産業としても可能性があると考えています。​

研究者としての苦労は?

自分が思った通りに研究が進むことはほとんどありません。しかし、そもそも研究がそんなに簡単にうまくいくわけがない。また、完成してしまったら自分の仕事は終わってしまいます。壁があり、考える必要があるから仕事がある。そう考えて、内心ではしょんぼりしながらもにっこり笑っているようにしています。

標的アイソトープ治療は診断と治療の機能を併せ持っているので、効果は目に見える形で証明されます。自分たちで作り出したRIを用いた動物実験で、がん細胞が縮小したり、消失していたりするのを見ると感動を覚えます。「これならいける!」という手応えを得られる、その瞬間の喜びのために生きています。​

これから目指していることを教えてください。

今までγ線やβ線(診断と治療)が核医学の主要なツールでしたが、これからの時代はα線の存在が無視できなくなるでしょう。そして,今後の10~20年で、α線の良いところ・悪いところが評価される時代が続くと予想しています。私はその間に“α線の次”を考えておきたいのです。

放射線治療の基本原理はがん細胞が複製されるときのDNAを破壊することにあり、DNAを切断できるなら他の線種でもいいわけです。放射線管理上の厳しい制約や入手性に難しさがあるα線よりも、他の線種ならもっと手軽に幅広い施設で使えるものになるかもしれません。そのためには、治療という出口の前に、放射線がどのように生命活動へ影響を与えるのか、という基礎的な現象の把握と評価が一層重要になります。20~30年後の実用を目指して、今からその種を植えておきたいと思います。

豊富について話すインタビュイー

*所属・役職はインタビュー当時(2019年12月23日)のもの

用語解説

※1 核子の集合体が原子

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