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量子医学・医療部門

脳機能イメージング研究の概要インタビュー

掲載日:2020年3月16日更新
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科学的根拠に基づく認知症の診断、予防、治療に挑む

インタビュイー

樋口真人(放医研 脳機能イメージング研究部長)

 

現在、日本の高齢化率は27.7%と、約3人に1人が高齢者という時代を迎えています(内閣府「平成30年版高齢社会白書」)。そのうち認知症の方は既に15.0%に達しており、2025年には約5人に1人になるとの推計も。 認知症対策は高齢社会である日本にとって極めて重要な課題です。

これまで認知症の診断には、診察で分かる症状が決め手として重要でした。実際には脳に病変が起こっていても、症状が出る前のごく早期では診断する方法がありませんでした。また、現在良いとされている認知症の予防方法についても、科学的根拠が明らかでない方法もありました。

しかし、PETやMRIといった量子イメージング技術は、脳のしくみを可視化することができます。PETは脳の機能や病態に関わる特定の分子を、MRIは脳の活動や形態を見ることができ、脳の様子が手に取るように画像で分かります。量子イメージング技術を用いれば、認知症や精神疾患などの脳神経疾患の診断や治療、予防法の研究に科学的根拠をもって取り組むことができるのです。

加齢による脳の機能低下は、脳内にさまざまなタンパク質のゴミがたまったり、神経と神経のつながりの異常が発生したりすることで起こります。認知症の患者さんの脳内には一般に「脳のゴミ」として知られる「アミロイドβ」や「タウ」と言ったタンパク質が蓄積していることが知られていました。QSTでは2013年にPET検査用薬PBB3を開発し、脳内のタウたんぱく蓄積を可視化することに成功しました。そして、アルツハイマー病はアミロイドβの蓄積が呼び水となり、タウがどんどん脳内で広がっていくために起こることが分かってきました。

臨床PET室の様子

患者さんにとっては、量子イメージングにより診断法がもたらされ、病気のメカニズムが分かるだけでは不十分で、認知症の治療が実現してこそメリットがあります。そこで脳機能イメージング研究で次に取り組んでいるのは、タウの除去により認知症を改善する新規薬剤の評価や予防用食品開発に量子イメージング技術を活用することです。現在、複数の製薬企業に開発中の薬の候補がありますが、それを認知症のモデル動物に投与し、ヒトと同じように量子イメージングで評価するのです。標的であるタウの蓄積を治療薬候補がどの程度抑えるのかが客観的に画像で分かるのは、量子イメージング技術の強みであり、薬剤の開発期間を短縮することにもつながります。

一方、加齢などで障害を受けた脳の神経回路を正常化するための「DREADD(Desingner Receptors Exclusively Activated by Desinger Drugs: ドレッド)」技術の開発にも取り組んでいます。脳の機能の強靭さは神経と神経をつなぐ回路が病的な変化に対してどの程度抵抗できるかによって異なると考えられています。例えば認知症や統合失調症は特定の神経回路の強靭さが失われて、興奮や抑制のバランス失われるために起こると考えられます。病変が始まったごく早期のうちに、特定の神経回路の強靭さを高めたり、興奮と抑制のバランスを調整したりすることができれば、これらの脳疾患の予防や治療が可能になるのではないかというのがドレッドの考え方です。

動物用PET

ドレッドは神経伝達物質の受容体の一種です。具体的には、無毒のウイルスの働きを利用して、脳の特定の場所に人工受容体を増やします。人工受容体は体内の物質には反応せず、普段は全く働いていませんが、神経伝達物質に似た薬剤「人工リガンド」を投与すると神経の興奮を抑えたり、働きが高まったりします。つまり薬で特定の神経の働きをコントロールすることができるのです。欧米では日本に先駆けて研究が始まっていたのですが、人工リガンドが脳の想定外の神経に作用してしまうために脳の機能に思わぬ影響が現れることが問題になっていました。量研では、量子イメージング技術を活用しながら、人工受容体を発現している神経細胞の働きだけを変えることができる人工リガンドの開発に成功しました。既に動物実験では実証できており、今後ヒトへの応用性を調べていく予定です。

 

研究部のメンバーでの打合せの様子

*所属・役職はインタビュー当時(2019年10月24日)のもの

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