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量子医学・医療部門

放射線防護研究 インタビュー (古場裕介 主任研究員)

掲載日:2020年3月16日更新
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ビッグデータの収集と解析で、日本の医療被ばくを適切な線量へ

QSTは、日本原子力研究開発機構、大分県立看護科学大学と共同開発した画像診断装置の被ばく線量評価Webシステム「WAZA-ARI」を改良し、2015年から医療関係者向けに無料で提供している。主任研究者として本システムの運用を担当している古場裕介が目指すものは何か、話を聞いた。

古場裕介

古場裕介

(放医研 放射線防護情報統合センター主任研究員)

「WAZA-ARI」とは何ですか?

​CT(X線コンピューター断層撮影)を使った画像診断による患者さんの被ばく線量を計算するソフトです。体の大きさが違えば被ばく線量は異なり、同じ放射線量を浴びた場合でも体の小さい人は被ばく線量が大きくなります。欧米人を対象に作られていた従来の計算ソフトでは、体の小さい日本人の被ばくが過小評価されてしまう問題点があり、日本人・アジア人を対象にした世界初のソフトとして「WAZA-ARI」を開発しました。性別はもちろん、さまざまな体格や年齢の患者さんの被ばく線量を、医療機関が同じ評価手法で比較・評価できますし、患者さんに「今のCTでどのくらい被ばくしたのですか?」と聞かれたときにも、医師や放射線技師が必要なパラメータを入力すればすぐに情報を提供することができます。​

なぜCT撮影の被ばく線量に注目したのですか?

日本人が宇宙や土壌、食品などから受ける自然放射線の被ばく線量は世界的な平均値と大きくは変わりません。一方、医療被ばく線量は世界平均の6倍以上に達しており、そのうちの半分を占めるのがCT撮影です。日本は医療水準が高く、CT診断装置の保有台数が多いという便益を受けている半面、医療被ばくの高さが指摘されていました。​

現在の業務内容について教えてください。

個々の患者さんの線量を把握するだけでなく、医療機関ごと、ひいては日本全体の医療被ばくの実態を把握し、評価したい。そのためには患者さんが受ける線量データを大量に集める必要があります。そこで、放射線防護情報統合センターの他のメンバーを中心に進めている「日本版DIR(医療被ばく情報収集システム)」と連携して研究を進めています。「WAZA-ARI」で計算した被ばく線量データを自動的に収集する装置を置いてもらえるよう、いろいろな病院を回ってお願いするのも私の業務の一つ。病院の放射線科技師長や医療情報システム担当者との人間関係づくりやコミュニケーションの重要性を感じています。

一方、「WAZA-ARI」を多くの方に利用していただけるのは名誉なことですが、利用者から受ける多くの要望や、バグの発生などにも対応し、より良いものへと改善していく仕事も生じます。限られた時間の中、クレーム対応もこなさなければなりません。研究者としては経験のない仕事ですので現在も苦労しています。

PCに向かって作業する古場裕介

古場さんはもともと重粒子線治療の分野の研究が専門だったそうですね。

「WAZA-ARI」に関わる前は重粒子線治療の線量測定機器の開発に携わっていました。重粒子線治療では数Gyから数十Gyの照射を行いますが、CT撮影はその1,000分の1、一般的なレントゲン撮影だと100万分の1以下。医療被ばくの線量は放射線治療に比べかなり低いので、測定が困難です。初めは戸惑い、測定も手探りでしたが、先輩研究者の方々に勉強させていただきました。医療被ばくは現在注目されているテーマですし、手掛けている研究者もまだ多くはありません。これまで明らかになっていなかった日本の医療被ばくの実態把握を多くの医療施設や研究機関、QST研究者の協力の下に挑戦し、切り開くことができることに非常にやりがいを感じています。​

2020年4月には医療法の省令改正が施行され、医療機関に医療被ばくの線量管理が義務化されます。

今後はQSTにより多くのデータが集まり、ビッグデータとして解析することが可能になるでしょう。研究の目的も医療被ばくの実態把握だけでなくどうすれば高い線量を下げられるか、実態を変えるような方法は何かを解析手法の専門家と連携して考えていきたいと思います。CT撮影は線量が高いほどきれいな画像が撮れますが、必要以上にきれいな画像で撮っても診断に影響はありません。がん治療後の経過観察のように撮影するべき位置が決まっている場合には範囲を狭めて医療被ばくを減らすこともできますし、大人に比べて体が小さい子どもはもっと低い線量で撮れるはずです。欧州では早くから導入されている医療被ばくの線量の目安である診断参考レベル(DRL)」を日本でも2015年に設定していますが、今後日本のDRLを更新していく際にも、私たちの研究が貢献できるのではないかと考えています。​

古場裕介

*所属・役職はインタビュー当時(2019年12月23日)のもの

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