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放射線影響研究 インタビュー(臺野和広 研究統括)

掲載日:2020年3月27日更新
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最先端装置を活用し、被ばくによるがん発症メカニズムの解明に挑む

放射線被ばく後に発症するがんは、他の要因で生じるがんとどう違うのか…。臺野和広は遺伝子レベルでがんの発症メカニズムを調べ、国内外に新たな知見を発表している。遺伝子解析装置の技術革新を背景に研究活動が加速度的に進められる中、臺野が目指すものは何か、話を聞いた。

インタビューイー

臺野和広

(放射線医学総合研究所 放射線影響研究部 発達期被ばく影響研究グループ 研究統括)

 

担当されているお仕事について教えてください。

私が所属している放射線影響研究部では、放射線によるがんのリスクを調べています。がんは遺伝子の異常から起こることが分かってきていますが、放射線被ばく後のがんの遺伝子に何か特有の異常が起きているのかどうかを動物実験によって明らかにするのが私の仕事です。

放射線被ばく後の乳がん発症メカニズムについて研究されていますね。

​乳房は放射線によるがんの発症リスクが高い臓器の一つです。私たちは乳がんのモデルラットに放射線を照射し、その後に発生した乳がんからがん細胞を採取して遺伝子を調べました。その結果、ラットの乳がん発症にはDNAの「折りたたみ(エピゲノム)異常」という仕組みが関わっていることが分かりました。DNAの折りたたみ機能とは、DNAの二重らせんを折りたたんだり緩めたりして必要な情報を読み出す機能です。例えば私たちの体が作られる時は、約3万種類の遺伝子の中から目や皮膚など各器官特有の情報が読み出されています。私たちの研究では、乳がんではEzh2と呼ばれる折りたたみ機能をコントロールしている遺伝子が過剰に発現し、折りたたみ異常を引き起こしていることを突き止めました。

折りたたみ異常によって起こる乳がんは、司令塔であるEzh2遺伝子の働きを抑えることで進行を抑えられる可能性があります。このことから、将来的には薬や食品で被ばくにより発症する乳がんの治療や予防ができればと夢見て研究を続けています。

DNA模型

​2019年にはリンパ腫についての研究でも論文発表されました。

こちらは弘前大学、北海道科学大学との共同研究で、生まれつきDNAの傷を修復する遺伝子に変異があり、がんを発症しやすい体質を持ったマウスを使った研究です。放射線を照射していない群、あるいは放射線を照射した群に発生したリンパ腫について、遺伝子変異の全体像を調べました。その結果、リンパ腫の発症率は、照射群の方が高いにもかかわらず、意外なことに両群のリンパ腫に生じた遺伝子変異の数や変異パターンには違いがありませんでした。つまり、このマウスモデルでは、放射線によるがんは「DNAを傷つけ遺伝子突然変異を誘発する」というメカニズム以外で発症している可能性があると言えます。当初は予想と違う結果に「手順を間違えたか?」と不安になりましたが、ほかの研究者との議論を通じて結果に間違いがないことを確認し、そのような結果になった理論を構築することができました。

これらの研究の背景には、遺伝子解析の大きな技術革新がありますね。

2000年代に入って次世代シーケンサーという装置が登場し、高速に遺伝子情報を解読できるようになりました。以前はPCR法やマイクロアレイ法という手法で遺伝子解析を行っていましたが、あるがんの原因遺伝子のうち1個を見つけるだけでも早くて数年。それが、次世代シーケンサーが登場してからはたった数日で遺伝子情報を取得できるようになり、その後のデータ解析を含めても数カ月で済むようになりました。そのおかげでより多くの研究を並行して進められるようになりました。ただ、最先端機器を使っていても決して簡単に成果が得られるわけではありません。膨大なデータが得られるようになったため、それを読み解くには、知識、経験のほか時間をかけて取り組む忍耐強さも必要です。

どのようなやりがいを感じていますか?

乳がんとリンパ腫の研究には長期間を要する動物発がん実験とその後の遺伝子解析を合わせて数年を費やしました。苦労が多かった分、国際的に評価の高い学術誌に掲載された時には達成感がありました。放射線で発症するがんのメカニズム研究を個体レベルで行っている研究者は国際的にもあまりおらず、科学界に貴重なデータを提示したことが認められたのだろうと思うと、うれしかったですね。こうした研究は一人でできるものではなく、各種のがんの専門家や病理学者の知識のほか、実験動物の飼育・観察、がんのサンプル採取、データの情報解析などさまざまな専門家とのチームワークの上に成り立っています。これからの研究者にはチームワークは欠かせないと思います。

 

臺野和広

*所属・役職はインタビュー当時(2020年1月24日)のもの

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