2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故以来、少量ずつ長期間被ばく(低線量率被ばく)した際の影響への不安の高まりや、特に子どもに対する放射線治療やCT検査など医療放射線の使用機会の増加を背景に、QSTでは低線量率被ばくが発がんに及ぼすリスクの解明などの研究を行っています。
最近の成果としては低線量率被ばくによる乳がん発症リスクの研究が挙げられます。乳腺は放射線の影響を受けやすい臓器の一つです。ラットによる実験の結果、被ばくした総量は同じでも、低線量率被ばくではがん発症リスクが下がることを確認しました。
今後は乳線同様に放射線の影響を受けやすいといわれる、その他の臓器のがんについても低線量率被ばくによる発がんリスクの研究を進める予定です。さらに、がんやその元になる幹細胞に放射線特有の遺伝子変異があるかを調べ、被ばく時の線量率や年齢によってリスクに違いが生じるメカニズムの解明にも取り組んでいきます。
動物実験の結果がそのままヒトにも当てはまるとは言い切れませんが、従来はわからなかったことを科学的に、できるだけ分かりやすい形で説明できるデータを提供し、被ばくによる発がん影響に対する皆さんの不安に科学的知見で応えていきます。
インタビュー
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近年の主なプレスリリース
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中性子線の発がん影響の強さを正確に評価する方法を確立 - 世界の放射線防護基準の基礎となるデータの獲得が可能に - (2021年6月24日)
- 食習慣の改善が大腸がんの発生を抑制する可能性を示唆~カロリー制限したマウスで被曝による消化管腫瘍を予防する効果を明らかに~(2021年3月5日)
- 放射線による発がんには遺伝子突然変異の誘発とは別のメカニズムがあることが判明 ‐遺伝性のリンパ腫に生じる遺伝子変異の全体像を動物で明らかに‐(2019年3月25日)
- 「じわじわ」被ばくのがんリスク、子どもと大人の違いを初めて明らかに ‐ラットの乳がん 線量率下げると大人の方ががんリスク大きく減少‐(2019年2月4日)
- 被ばく後の乳がん、妊娠・出産経験によってリスク低下 ‐ラットの実験でメカニズムも解明、乳がんリスクを低減する薬など開発の手がかりに‐(2018年11月15日)