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量子生命・医学部門

放射線影響研究インタビュー 被ばくした細胞を追跡し、発がんメカニズムを明らかにする

掲載日:2021年11月5日更新
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被ばくした細胞を追跡し、発がんメカニズムを明らかにする

被ばくによってがんがどのように発症するかは、実はまだよくわかっていない。飯塚大輔は、被ばくした細胞ががんを形成するまでの過程を追跡することで、発がんメカニズムの解明に挑んでいる。そのユニークな実験手法や目指していることについて話を聞いた。

インタビューに応じる飯塚研究統括

飯塚大輔

(放射線医学研究所 放射線影響研究部 発がん動態研究グループ 研究統括)

被ばくとがんの関係はどこまでわかっていますか?

広島・長崎の原爆投下で被ばくした方たちの疫学調査などから、被ばくによってがんの発症リスクが高まることが明らかになっています。しかし、被ばくによる発がんのメカニズムはよくわっていないのが現状です。特に、低線量被ばくの場合は、生体への影響が小さいため、発がんのリスクがどの程度上がるのか、あるいは上がらないのかを正確に捉えることが難しいのです。

私は、被ばくによるがんの発症メカニズムを明らかにすることで、低線量被ばくのリスクを正確に示すことを目指しています。またメカニズムに基づいたがんの予防薬の開発にもつなげたいと考えています。

これまでどのような研究をされてきましたか?

通常のがんと同様、被ばくによる発がんも、遺伝子の異常によって引き起こされると言われています。私は被ばくによる発がんには、自然に発生するがんとは別の遺伝子異常があるのではないかと考え、15年ほど前から、がん細胞のゲノム異常を調べてきました。これまでの研究から、被ばくに起因するがんに特徴的な遺伝子変異がいくつか見つかってきましたが、発がんメカニズムの全貌はなかなか見えてきません。

そこで、視点を変えて、今度は細胞に注目し、「細胞系譜追跡」という新たなアプローチで研究を進めています。

「細胞系譜追跡」とはどのような方法ですか?

被ばくした細胞は、すべてががんになるわけではありません。被ばくした細胞のうち、一部の細胞のみが増殖を繰り返し、腫瘍を形成してがんに至ります。なぜ、その一部の細胞ががんの起源になるのかはわかっていません。

そこで、薬剤投与により、特定の細胞に標識を付けられるようにした遺伝子組換えマウスを用いて、被ばく後の細胞を追跡できる実験系を構築しました。

細胞系譜実験のイメージ

この実験系では、上の図のように、組織内の特定の細胞を赤、黄、緑、青などと色分けして標識することができます。分裂してできる子孫細胞も同じ色で標識されるため、被ばくした細胞が増殖してがんを形成するまでの過程を追跡することができます。

本来、組織内は正常な細胞で埋め尽くされています。その中で、がんになる細胞はどのようにして他の細胞集団を排除して支配的になるのか。その過程を観察することで、細胞のふるまいから発がんメカニズムの解明に迫ります。

今後どのような展開が期待されますか?

この研究から、例えば、がんになる細胞が正常な細胞を駆逐していることがわかれば、それを阻害するような薬、つまりがんの予防薬を開発するという展開が期待できます。また、がんを形成した細胞集団のゲノム変異を捉えることで、被ばくによる発がんの鍵となるゲノム変異を明らかにできる可能性もあります。

研究にかける思いをお聞かせください

この研究は、発がんまでの過程を見るため、数年、数十年ととても時間がかかり、根気がいります。しかし、それだけ難しい研究であり、社会的意義のある仕事だと思います。研究者人生をかけて、私の究極の目標である「低線量被ばくのリスクをメカニズムから明らかにすること」に全力で取り組んでいきたいと思います。

*所属・役職はインタビュー当時(2021年8月27日)のもの