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標的アイソトープ治療 第42回 悪性脳腫瘍の新がん治療薬開発

掲載日:2022年5月12日更新
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量子科学技術で作る未来 第42回
放射性治療薬 低酸素化腫瘍に高集積

現在、再発をきたした悪性脳腫瘍に対して、有効な治療法は確立されていない。このため、新規治療法の開発が強く望まれている。従来の化学療法や放射線治療が効きづらい原因として、腫瘍の中では腫瘍細胞が活発に増殖し、血管が乏しくなり、薬剤が届きにくくなることに加え、放射線治療の際に必要となる酸素が腫瘍内部において濃度低下するためである。

これに対し量子科学技術研究開発機構(QST)は、低酸素化した腫瘍に高集積し、高い治療効果を発揮する放射性治療薬Cu-64-ATSMの開発を行ってきた。本薬は、脳腫瘍に限らず、組織浸透性が高く血流の乏しい、他の低酸素化腫瘍(がん)内にも到達できる性質を有する。こうしたがん細胞内は酸素濃度が低いため、本薬は還元され、銅(Cu)の放射性核種Cu-64を放出し、これが低酸素化したがん細胞内に蓄積することでがん治療として効果が高まる。

この時、細胞内に高集積したCu-64は、既存放射性治療薬(ヨウ素-131やイットリウム-90など)が放出するβ線だけでなく、高エネルギーを局所的に付与し細胞への殺傷効果がより高いオージェ電子も放出して、がん細胞のデオキシリボ核酸(DNA)およびがん細胞自体を効果的に殺傷・殺傷できる。

これまでにQSTは、がん細胞株移植モデルを用いた非臨床試験でCu-64-ATSMが悪性脳腫瘍の増殖を効果的に抑制し、生存率を改善することを明らかにしてきた。こうした成果から、我々は再発悪性脳腫瘍に対する新治療薬としてCu-64-ATSMが有効であると考え、現在本薬のヒトでの安全性を明らかにする第1相医師主導臨床試験(STAR-64)を実施中である。

本臨床試験を実施するにあたり、我々はCu-64-ATSMの製剤化、高品質な治療薬を製造する体制の確立を行ってきた。本臨床試験は、QSTと国立がん研究センター中央病院と共同で開始され、現在は治療薬製造施設として両機関、さらに治療実施医療機関として国立がん研究センター中央病院・神奈川県立がんセンターが参画し、多施設体制で実施することで、治験を加速している。本臨床試験は、治療目的でのCu-64-ATSMを初めてヒトに投与するファースト・イン・ヒューマン試験である。

また、日本で開発された放射性治療薬を国内で製造・供給し実施する初めての治験であり、早期の実用化目指している。

図・写真

執筆者

量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所

分子イメージング診断治療研究部 上席研究員

女性の顔

吉井 幸恵(よしい・ゆきえ)

難治性がんの放射性治療薬の研究開発に15年以上従事しており、新築をいち早く患者の皆さんにお届けしたいと願っている。

本記事は、日刊工業新聞 2022年4月21日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(42)放射性治療薬 低酸素化腫瘍に高集積(2022年4月21日 科学技術・大学)

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