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標的アイソトープ治療 第44回 RI標識薬がんに局所照射

掲載日:2022年6月6日更新
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量子科学技術で作る未来 第44回
RI標識薬がんに局所照射

標的アイソトープ治療は他の放射線療法では難しい転移性や採種性のがんに有効と考えられている。通常の放射線がん治療と異なることは、体外から放射線をがんめがけて照射するのではなく、放射線を出す性質がある放射性同位元素(RI)をがんに集めて体内から照射することである。RIと結合した分子標的薬剤(RI標識薬剤)が血中をめぐって向かう先はがん細胞であり、がん細胞一つひとつに放射線が限定的に局所照射される点が他の治療法にはない特長である。

RIの中でもアルファ(α)線はがんの殺傷効果が高く、固形がんを対象とした外照射の炭素線治療と同程度の治療効果が期待される。がん細胞へのRIの集積率や細胞致死に必要な線量を正確に見積もることは、治療に必要な投与線量を定量的に決定・計画することに繋がる。一方で、全身をRI標識薬剤がかけめぐることから、標的とするがん細胞以外の正常細胞への線量評価も、副作用の観点から大切である。

量子科学技術研究開発機構(QST)では、α線を放出するRI標識薬剤をがん細胞に結合させ、そこから放出されたα線一つひとつを個体飛跡検出器(個体中に残された放射線が通った跡(飛跡)を顕微鏡で観察する検出器)を用いて計測する手法を開発した。細胞を検出器の上にのせて照射すると、図左上のがん細胞から放出されたα線が直下の検出器内を通った飛跡が図左下である。このように、一つひとつのがん細胞に照射されたα線の個数を調べることができる。この手法の確立により、単一細胞レベルでの局所的な線量評価が可能になった。

肝臓に転移がんをもつマウスにα線を放出するアスタチン211を結合した抗体薬剤を静脈注射し112時間動態する実験にこの手法を適用した。図右は肝臓の組織切片に対応するα線の分布を表しており、正常組織に比べて圧倒的にがん細胞にα線が集中していることがわかる。アスタチン211標識抗体薬剤のがん細胞への線量集中性が非常に高いことを示しており、動物実験で得られている高い治療効果を裏付けるエビデンスと考えられている。

今後、治療計画に必要な生物効果モデルを構築するために、一つひとつのがん細胞に付与される物理線量を基準として、がん細胞の致死や修復に関する基礎研究を進めていきたい。

図・写真

執筆者

量子科学技術研究開発機構 放射線医学研究所 計測・線量評価部

放射線計測グループリーダー

男性の顔

小平 聡(こだいら・さとし)

放射線計測技術の開発と治療から宇宙にいたる様々な計測・線量評価研究に従事。(理学)。

 

本記事は、日刊工業新聞 2022年5月12日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(43)RI標識薬がんに局所照射(2022年5月12日 科学技術・大学)

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