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高崎量子応用研究所

研究課題1 - プロジェクト「高分子機能材料研究」

掲載日:2019年7月22日更新
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研究課題 1.燃料電池用高分子電解質膜の研究開発

 透過性の高い量子ビーム(電子線やγ線など)は、大容積の物質にエネルギーを均一に与えることができます。そのため、多くの高分子化合物に対して、架橋による耐熱性・機械特性の向上やグラフト重合(放射線グラフト重合)による新たな機能性の付与が可能です。特に、放射線グラフト重合は、高分子基材の耐熱性や機械特性を維持したまま、機能付与できるのが特長です。また、最近の研究から、数十~数百ナノメートルの機能性ドメインを導入できる、特殊な「固相反応」であることが明らかになってきました。
 電子線やγ線による放射線グラフト重合の典型的な利用例として、高分子膜への導電性付与による高分子電解質膜の作製があります。高分子電解質膜は、エネルギー・環境問題解決の切り札の一つと考えられている燃料電池の重要な部材です。我々は、燃料電池自動車や家庭用電熱供給システム(定置型燃料電池)に適用可能なプロトン型高性能高分子電解質膜の研究開発に取り組んでいます。また、電極触媒が白金フリーで水加ヒドラジンなどの液体燃料を使用するアニオン型燃料電池自動車に適用可能なアニオン伝導電解質膜の研究開発を行っています。

芳香族炭化水素系高分子からなるプロトン伝導電解質膜の開発

 耐熱性、機械特性、燃料バリア性に優れたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)膜に対して、熱グラフトと放射線グラフト重合を併用することで、従来膜よりも高いイオン伝導性かつ機械強度を持つ電解質膜の合成に成功しました。異なる結晶化度のPEEK膜にグラフト反応を行った結果、グラフト重合性は、PEEK膜の結晶化度に依存することを見出しました。また、作製した電解質膜を用いることで、家庭用燃料電池に要求される80℃、4万時間の耐久性を実証できました。

芳香族炭化水素系高分子からなるプロトン伝導電解質膜の開発の画像1

[関連資料]S. Hasegawa, et al., Radiat. Phys. Chem., 77, 617-621 (2008); J. Chen, et al., J. Membr. Sci., 319, 1-4 (2008); S. Hasegawa et al., Polymer, 54, 2895-2900 (2013)

 高温低加湿下で高イオン導電性と機械強度を併せ持つグラフト型電解質膜の開発を目的に、高いIECを有するPEEK-グラフト型電解質膜(PEEK-PEM)を合成しました。
 IECが3.08 mmol/gのPEEK-PEMは、低加湿下(30% RH、80℃)でナフィオンと同等の導電率を示し、高加湿下(100% RH、 80℃)でナフィオンの1.4倍の機械強度14 MPaを示しました。XRD測定の結果、グラフト率の増加とともに結晶化度が低下することがわかりました。しかし、PEEK基材の結晶化度に着目すると、PEEKの高い結晶性が維持されていることがわかり、量子ビームによる解析で、PEEK-PEMが高い機械強度を示す理由が明らかになりました。この知見は、今後の電解質膜の設計に重要な情報となります。
 PEEK-PEM(IEC=2.45 mmol/g)を用いて作製した燃料電池の性能は、高温低加湿下(30% RH、 80℃)で実用化されているナフィオンの2.5倍の最大出力密度を示しました。
 現在は、フィルムメーカーや自動車メーカーと実用化に向けた共同研究を実施しています。

芳香族炭化水素系高分子からなるプロトン伝導電解質膜の開発の画像2

[関連資料]T. Hamada, et al., J. Mater. Chem. A, 3, 20983-20991 (2015)

アニオン型燃料電池用電解質膜の開発

 熱特性、耐薬品性に優れたエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)膜への放射線グラフト重合によりアニオン伝導高分子電解質膜を合成しました。水酸化物イオンを対アニオンとするアルキルアンモニウム塩の電解質膜は、高い導電率を示すと同時に、熱的、化学的に不安定であり、安定化するために高い吸水性を示し、より安定で導電率の低い重炭酸化物に変化することを明らかにしました。また、アルカリ分解機構を詳細に調べ、分解が起こらない化学構造のグラフト鎖を分子設計し導入することで、アニオン伝導電解質膜の大幅なアルカリ耐性向上に成功しました。
 現在、アニオン型燃料電池自動車の実用化に向け、自動車メーカーと共同研究を行っています。

アニオン型燃料電池用電解質膜の開発の画像

[関連資料]H, Koshikawa, et. al., Macromol. Chem. Phys., 214, 1756-1762 (2013); K. Yoshimura, et. al., J. Electrochem. Soc., 161, F889-F893 (2014)