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プレスリリース

核融合実験炉イーター実機TFコイルの日本分担分最終号機製作完了-技術課題を克服し、イーター計画を着実に推進-

掲載日:2023年2月21日更新
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発表のポイント

  • 東芝エネルギーシステムズ株式会社が製作を担当する 4 基の超伝導トロイダル磁場( TF )コイルが完成
  • 核融合実験炉イーターに組み込む TF コイル日本分担分 全て の製作 を完遂
  • イーター 計画 における 日本分 担 機器製作の 着実な 進展 を 示す重要な成果

概要

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構理事長 平野俊夫 。 以下「 量研 」という。) と東芝エネルギーシステムズ株式会社( 代表取締役社長 四柳 端。 以下「東芝 ESS 」という。) は 、 約10 年にわたり 核融合実験炉イーター 1) の 超伝導 トロイダル磁場 TF コイル 2) の 製作に取組み、このたび、最終号機 となる 4 基目の製作を完了しました。
​ TFコイルはイーターの主要機器の ひと つで あり 、 そ の大きさは高さ 16.5 メートル、幅 9 メートル、重量は 3 1 0 トン に及びます 。 また、 これら のコイルは、 イーター内の 周方向に 18 基 設置 され 、 数億度 のプラズマを閉じ込めるための強力な磁場を発生します。 そのプラズマを閉じ込めるため に 、これらのコイルを 極低温( 4 ケルビン(摂氏マイナス 269 度))まで冷却し て 超伝導 3 コイルとし 、その巻線部に 世界最大の 6 万 8 千アンペアの電流を通電 する ことにより、 11.8 テスラ も の高磁場 を 発生させ ます。 当該 磁場 に よ り 運転時 の TF コイル へ 加わる 最大 6 万トンもの巨大な電磁力 から 巻線部を 守る ため の強化策として 、 その巻線部と 分厚い ステンレス製大型構造物(以下「構造物」という)と を 一体化させ ています。
 TFコイル に は プラズマを閉じ込めるための 高い磁場精度が要求され ることから、電流中心線 4)
の 位置 は 、その巨大さにもかかわらず、わずか数ミリの誤差しか許されません 。こうした厳しい精度 が課された大型の超伝導コイル製作は、イーター以前には世界的にも前例がなく、まさに前人未到の挑戦と言えるものでした。量研と東芝 ESSは、双方の技術力を結集して、この解決困難な技術的課題に果敢に取り組み・克服した結果、各コイルの電流中心線が上記許容誤差内であることを担保し、巨大な電磁力に耐えうるTFコイルを完成させることができました。
​ イーターでは、TFコイルを18基組み込みますが、このうち日本で8基、欧州で10基を製作します。このたび、東芝ESSがTFコイル4基を完成させたことで、イーターに組み込む日本が分担する全8基のTFコイル製作の完遂となりました。なお、この他にスペア1基の製作を日本が担当しています。
​ 以上の成果は、イーター計画における日本分担機器製作の着実な進展を示すとともに、同計画における日本の貢献が非常に大きいことを示すものです。

本成果の意義

 核融合実験炉イーターのTFコイルは、イーターの主要機器のひとつであり、強力な磁場によって数億度のプラズマを閉じ込める超伝導を用いた電磁石です(図1)。イーターでは、TFコイルを18基組み込みますが、このうち日本で8基、欧州で10基を製作します。なお、この他にスペア1基の製作を日本が担当しています。
 このたび、東芝ESSがTFコイル4基を完成させたことで、量研は、イーターに組み込む日本が分担する全8基のTFコイル製作を完遂し、イーター計画の進展に大きく貢献しました。完成したTFコイルの内7基は、フランス南部のサン・ポール・レ・デュランスにある国際核融合エネルギー機構(以下「イーター機構」という。)に順次輸送され、イーター機構が運転開始に向けて、これらTFコイルの組立・設置作業を行っています。

TFコイル開発における技術的課題とその解決

 TFコイルにはプラズマを閉じ込めるための高い磁場精度が要求され、電流中心線の位置は、その巨大さにもかかわらず、わずか数ミリの誤差しか許されません。量研と東芝ESSは、タッグを組み、双方の技術力を結集し、これら解決困難な技術的課題を克服し、TFコイルを完成させました。
 TFコイルは、巻線部と構造物をそれぞれ製作して、これらを一体化することで完成します(図2)。TFコイルは、上記の電流中心線の位置公差の要求を満足するために、巻線部と構造物を精度良く組み合わせる必要があります(技術課題⓵)。また、TFコイルの運転時に生⓶じる巨大な電磁力に耐えられるように、巻線部と構造物を隙間なく一体化する必要があります(技術課題⓶)。このように、高精度で巻線部と構造物を組み合わせることと、隙間なく一体化することが、TFコイル開発における大きな課題でした。

イーター超伝導マグネットシステムとイーターTFコイルの図

図1 イーター TFコイル

 

TFコイルの構造

図2 TFコイルの構造

 

 技術課題⓵では、巻線部と構造物を精度良く組み合わせる必要がありますが、すでに両者には、それぞれの製造過程で製作誤差が生じています。そのため、巻線部と構造物の製作誤差を考慮しつつ、どのように最適な位置で巻線部と構造物を組み合わせるかということが重要な技術課題のひとつでした。巻線部と構造物を組み合わせる作業として、図3に示すように、まず直線部の構造物に巻線部を設置して、次に曲線部の構造物を設置し、その後、構造物蓋を取り付けることで、巻線部が構造物内に格納されます。こうした巨大構造物を取り扱う作業に対して、技術課題⓵である電流中心線の位置公差を満たすために、0.01ミリメートルオーダーの精度を有する光学的計測装置を導入し、作業中の巻線部と構造物の形状をリアルタイムで計測し、必要に応じてこれらを矯正できる手法を確立することで、巻線部と構造物を高精度で組み合わせることに成功しました。その結果、図4に示すとおり、巻線部と構造物を合わせた後の電流中心線の位置は、TFコイル全4基ともに所定の公差を満足することができました。
 一方、技術課題⓶では、巻線部と構造物を一体化するため両者の隙間に液状の樹脂を注入したのち硬化する一体化含浸が必要になりますが(図5)、樹脂は時間が経つと硬化しますので、一度固まってしまうとやり直しができなくなります。そのため、限られた時間内に約1,700リットルもの樹脂をどのように均一に注入するかということがもうひとつの重要な技術課題でした。この課題を解決するために、パワフルかつ緻密な制御が可能な含浸システムを開発することで、短時間で確実に一体化含浸を行えるようにしました。具体的には、強力な樹脂送り用ポンプを装備することで、12時間以内に約1,700リットルもの樹脂注入を可能とし、また、構造物内の圧力をコントロールすることで空隙なく樹脂を含浸できるようにしました。図6は、TFコイル一体化含浸中の巻線部と構造物間の静電容量を表していますが、両者の隙間に樹脂が注入されると徐々に値が上昇し、隙間が全て樹脂で埋まると静電容量は飽和します。このように、静電容量が飽和したことで、樹脂注入が問題なく適切に充填されたことを確認できました。そして、樹脂硬化後に、最終製作工程として、構造物の他機器との取り合い部等の機械加工を行い、要求を満足するTFコイル全4基を完成させました。

TFコイルの巻線部と構造物を組み合わせる作業図

図3 巻線部と構造物を組み合わせる作業

 

巻線部と構造物を合わせた後の電流中心線の位置

図4 巻線部と構造物を合わせた後の電流中心線の位置

 

一体化含浸における樹脂の注入の図

図5 一体化含浸における樹脂の注入

 

一体化含浸時の巻線部と構造物間の静電容量

図6 一体化含浸時の巻線部と構造物間の静電容量

用語説明

1) 核融合実験炉イーター

 我が国は、世界7極35か国の国際協力により、実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER(イーター)計画を推進しています。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が進められているとともに、各極において、それぞれが調達を担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。

イーター計画に関するホームページ(日本語)

イーター機構のホームページ(英語)

ITER鳥瞰図

 

2) トロイダル磁場コイル

 イーターの主要機器の1つであり、プラズマの閉じ込め磁場を形成する超伝導電磁石です。高さは16.5メートル、幅は9メートルで、最大で11.8テスラの磁場を発生することができます。日本と欧州がトロイダル磁場コイルを製作します。製作したトロイダル磁場コイルはフランスに順次輸送し、イーターに組み込まれます。

 

3) 超伝導

 超伝導とは、特定の物質(超伝導物質)を極低温に冷却すると電気抵抗がゼロとなる現象のことです。この現象を利用して、超伝導物質に大電流を流し、超伝導導体として用いることで、非常に強力な電磁石が実用化されています。トロイダル磁場コイルに用いる超伝導導体は0.82ミリメートルの超伝導素線900本と銅線522本を撚り合わせてケーブル化し、ステンレス管に挿入したものです。超伝導物質としてNb3Sn(ニオブ3スズ)を用いており、18ケルビン(摂氏マイナス255度)以下の温度に冷却すると超伝導になります。

4) 電流中心線

 TFコイルの断面には、複数の超伝導導体が何層にもわたって配置されており、それぞれに電流が流れますが、これらの導体集合体の幾何学的重心を、ここでは電流中心線としています。TFコイル製作における製作誤差によって、構造物内の導体位置はずれますので、電流中心線もずれていきます。このずれを数ミリ以内で管理する必要があります。

電流中心線の図