か・カ
核磁気共鳴(Nuclear magnetic resonance/NMR)
外部静磁場に置かれた原子核が、その歳差運動の周波数と等しい周波数の電磁波 (ラジオ波) エネルギーを吸収して励起され、その後緩和過程を経て元へと戻る現象。核の緩和過程を共振器コイルより微弱電流として検出し、スペクトルを得ることにより、分子構造を原子レベルで知ることができる。
核磁気共鳴画像法(Magnetic resonance imaging/MRI)
主に生体を構成する水分子や脂肪を標的とし、それらを構成する水素核を対象とした核磁気共鳴現象を利用することで生体深部の情報を画像化する方法。
核スピン縦緩和(Nuclear spin longitudinal relaxation/T1)
外部磁場下で電磁波を吸収して励起された核スピンが元の状態に戻るまでの時間の長さを表す指標のこと。動的核偏極(用語「動的核偏極(DNP)」参照)においては、分子プローブの”寿命”、すなわち高感度化信号の持続時間を表す指標として用いられる。
核染色画像(Nuclear stained image)
DAPI(用語「DAPI」参照)やHoechst(生細胞の染色剤)などの蛍光色素や、ヘマトキシリン(染料の一種)によって細胞内の核だけを染色することで得られた画像。
幹細胞(Stem cells)
幹細胞とは、自分と同じ細胞に分裂することができる自己複製能、およびさまざまな細胞に分化する多分化能をもつ未分化の細胞である。限りなく増殖が可能な点が体細胞と異なる。主に、受精卵由来の胚性幹細胞(ES細胞)、通常の細胞由来の人工多能性細胞(用語「iPS細胞(人工多能性細胞)」参照)、体性幹細胞などがある。
肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor)
肝細胞増殖因子(HGF)は培養肝細胞の増殖を促進する因子として発見されたサイトカイン(細胞から分泌される生理活性タンパク質)であり、組織・臓器の再生・修復を担う多様な機能を持っている。
き・キ
機能的磁気共鳴画像法(Functional MRI/fMRI)
脳神経活動に伴って生じる局所的な酸素代謝・血流動態の変化を、核磁気共鳴画像装置(用語「核磁気共鳴画像法(MRI)」参照)によって計測、画像化する技術。脳の機能局在性や脳部位間の機能的な連携関係を非侵襲的に探索する上で標準的な手段となっている。
嗅覚受容体(Olfactory receptor)
嗅細胞に存在し、匂い分子と結合して匂いを感知するタンパク質受容体。脊椎動物ではこのタンパク質は嗅上皮に、昆虫では触角にある。
嗅粘液(Odor mucus)
鼻腔の粘膜の一部で、匂い分子を感知する嗅覚において重要な役割を果たしていると考えられている。
共晶(Eutectic)
ある種の混合液体が純粋物質のように一定の温度(凝固点) で凝固して同じ組成の混合固体となるとき、これを共晶という。共融混合物ともいう。
キラル分子(Chiral molecule)
右手と左手の関係のように、互いに鏡に映した関係ではあるが重ね合わせることができない(同一ではない)ような構造を持つ分子のこと。生物では、その片方の型の分子だけが活性を持つことが多いため、両者の型の違いを識別することが重要である。
金属錯体(Metal complex)
中心に金属原子あるいは金属イオンが存在し、それをいくつかの配位子と呼ばれる分子やイオンなどが方向性をもって取り囲んでいる構造を持つ化合物や複合体のこと。溶液中における金属錯体の形成反応は非常に早いことから、超偏極による高感度化信号を足がかりとして錯体形成を直接検出することにより、溶液や生体内の金属を検出するための分子プローブが開発されている。
く・ク
クライオ電子顕微鏡(Cryogenic electron microscopy)
液体窒素温度(-196℃)等の低温で電子線を照射し、分子の様々な方向から得られる電子顕微鏡像を解析して、巨大分子の立体構造を推定することができる。21世紀に大きく技術革新が進んで普及し、2017年のノーベル化学賞の対象となった。
グリア細胞(Glial cells)
グリア細胞とは、神経系を構成するニューロン以外の細胞の総称であり、神経膠細胞とも呼ばれる。形状によってミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイトなどに分類される。
グリコリシス(Glycolysis)
細胞質に存在する生化学反応経路の一つ。酸素を必要とせずにブドウ糖(グルコース)を分解してエネルギーを生み出すATP(用語「アデノシン三リン酸(ATP)/アデノシン二リン酸(ADP)」参照)を生成する。ほとんど全ての生物が解糖系を持っている。
クリプトクロム(Cryptochrome)
クリプトクロムはFAD(flavin adenine dinucleotide:生体内の酸化還元反応に関与する補酵素) を補酵素とした青色光受容体タンパク質である。概日リズムへの関与や光センサーとしての機能があるが、地磁気を感知するものがあると言われ、量子もつれ(用語「量子もつれ」参照)が生物機能にかかわる量子生物学の一つのテーマとして、近年注目を浴びている。
グルタミン(Glutamine)
アミノ酸の一種。分子内の一部の炭素を13Cに置き換えたグルタミンが、超偏極技術により代謝を追跡するためのプローブとして応用開発されている。
クローニング(Cloning)
生物学用語で、全く同じ遺伝子型をもつ細胞や個体(クローン)を単離・作製すること、あるいはある特定の遺伝子のみを増やすこと、もしくはそれによってその遺伝子を単離すること。
け・ケ
蛍光タンパク質(Fluorescent protein)
励起光を照射すると蛍光を発するタンパク質であり、このタンパク質の遺伝子を利用することで、生きた細胞内の特定の遺伝子の発現や、特定のタンパク質の局在などを観察することができるため、生物学研究に広く利用されている。
原子核スピン(Nuclear spin)
原子核は角運動量を持った微小磁石のように振る舞う。この振る舞いを原子核スピンと呼び、核磁気共鳴(用語「核磁気共鳴(NMR)」参照)技術の検出原理の根幹となる原子核の性質である。
こ・コ
高温超伝導(High temperature superconductor/HTS)
ある種の物質の電気抵抗が低温下でゼロとなる超伝導 のうち、比較的高い温度で実現するもの。1986 年の LaBaCuO 系酸化物による発見以来、世界中で研究が始まり、液体ヘリウム (-269 ℃)を必要とせず入手が容易な液体窒素 (-196 ℃) で作り出されるものもある。さまざまな産業機器での実用化に向けた研究開発が進められている。
膠原線維(Collagen fiber)
結合組織を構成する繊維の一種。タンパク質であるコラーゲン分子が多数集まって繊維状になっており、腱、靭帯、真皮などに多く含まれる。
光電子分光法(Photoelectron spectroscopy)
真空紫外、X線を励起光とするときの分光法。電子状態や化学結合の解析、化学組成や膜厚の分析等にも用いられる。
コルチゾール(Cortisol)
副腎皮質から分泌されるホルモンの一種。ストレスを受けたときに分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれている。代謝促進、抗炎症、免疫抑制といった作用があり、生体にとって必須のホルモンである。
初版:2022年10月17日公開