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核融合発電 第02回 実験炉イーター「人類の夢」実現挑む

掲載日:2021年7月16日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第02回 実験炉イーター「人類の夢」実現挑む

 核融合発電の実現を目指して、世界の英知を結集し、開発を進めているのが核融合実験炉「イーター」プロジェクトだ。世界的にも類を見ない規模で進めるこのプロジェクトは、1985年に米ソ首脳で核融合に関する国際協力が話し合われたのがきっかけだ。
 その後、米ソ(後に露)日欧の4極で設計を進めた後、韓中印の3極を加え、7極政府間で2006年にイーター協定を締結し、この国際約束の下、南フランスにイーターを建設中だ。
 既に30年以上にも及ぶこの壮大なプロジェクトは、人類が初めてその制御下で、エネルギー増倍率(高温プラズマ生成に用いたエネルギーに対する核融合による出力エネルギーの比、これまでの記録は1.25)10以上、50万キロワットもの核融合エネルギーを発生させるという、まさに「人類の夢」を実現させる取組みだ。

核融合発電 第02回 画像
画像提供:ITER機構

 イーターの大きさは幅30m、高さ30mであり、構成する機器も超巨大かつ精密だ。
 それゆえに、7極が分担する機器の製作、現地までの陸・海・空の輸送、現地での組立、運転のいずれをとっても想像を超える困難さに直面する。
 例えば、機器の製作では、良好なプラズマ閉じ込めのために10mを超える超巨大機器に対して1万分の1(数mm)の精度が要求され、輸送では、巨大機器の南フランスまでの輸送方法そのものが高いチャレンジであった。
 組立では、ミリ単位の精度が求められ、機器そのもののハンドリング方法も困難な課題であった。参加極の優れた技術及びイーター機構(イータープロジェクトを実施する主体、国際機関)を中心とする全世界的な巨大チームをワンチームとして機能させるプロジェクト管理によって、これらの課題を克服し、精力的に活動中だ。

 今後の記事で紹介するが、日本は、イーターの心臓部である超伝導コイル9機、外部加熱機器、プラズマ計測機器、燃料処理系統、真空容器内機器とその保守装置など高い技術力が必須な製作の担当だ。また、優れた人材をイーター機構に派遣し、プロジェクト管理、組立作業の中核を担う。
 QSTは、日本のイーター実施機関として、これらに取り組んでいる。かく言う筆者も、イーター組立を支援する一員として現地に滞在中である。

執筆者略歴

核融合発電 第02回 著者近影

量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所
ITERプロジェクト部 ITER連携戦略グループリーダー
正木 圭(まさき・けい)

平成5年入所以来、核融合実験装置JT-60Uの容器内機器の研究開発、さらにその後継装置であるJT-60SAの設計と組立に関わってきた。現在、フランスにてITERの建設に携わっている。

本記事は、日刊工業新聞 2021年6月3日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 ​量子科学技術でつくる未来 核融合発電(3)実験炉イーター「人類の夢」実現挑む (2021/6/3 科学技術・大学)