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核融合発電 第03回 巨大超伝導コイル 高精度製作

掲載日:2021年7月16日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第03回 巨大超伝導コイル 高精度製作

 核融合実験炉イーターの高温プラズマを閉じ込める磁場を作るのが、トロイダル磁場(TF)コイルだ。この主要機器は高さ約16m、幅9m、重さ310トンという巨大な超伝導電磁石で、6.8万アンペアもの大電流を流し、TFコイル18基を放射状に並べたドーナツ状の空間に発生する磁場は、11.8テスラと強力だ。
 絶対温度4K(-269℃)で電気抵抗ゼロとなるニオブ・スズ超伝導線を超伝導巻線に用い、長時間の運転でも消費電力は十分小さい。日本は、実機8基とスペアの合計9基のTFコイルの調達が担当だ。

 プラズマを構成するイオンと電子を閉じ込める鍵は、TFコイルとプラズマ自身に流れる電流が作る磁場のカゴだ。一つ一つのTFコイルの精度が不十分で磁場がいびつだと、プラズマの温度が上がらず核融合反応は起こらない。
 TFコイルは核融合反応の安定な持続の水先案内人として、ザトウクジラほどに巨大でありながら、最小でわずか0.4mmというペンの先ほどの製作精度が求められる繊細な機器なのだ。

核融合発電 第03回 画像

 さらに、強力な磁場ゆえTFコイル自身が受ける電磁力も強大で、超伝導巻線を収納するコイル容器は、極低温でも強度を保てる厚さ約15cmの特殊ステンレス鋼製の強靭な構造だ。厚板の溶接構造を持つコイル容器は、溶接変形が甚だしくその制御が課題であった。
 要求精度実現のためにQSTが確立したのが、三次元測定機、レーザートラッカーで溶接中の変形をリアルタイム計測しつつ、溶接個所を変えたり予め変形させて溶接変形を抑制する手法だ。

 また超伝導巻線をコイル容器内に一体化する時には、磁場の歪が0.005%以下となる位置への超伝導巻線の組み立てが必要だ。そこでQSTが着目したのが、製作後の超伝導巻線とコイル容器のCADモデルを用いたコンピュータ解析だ。一体化作業中、モニターして1mm以下の精度で超伝導巻線の位置を調整し、その中心位置を直径2.6mmの円筒内に収めるという極めて高い要求精度を満足した。

 すでに3基が現地南フランスに到着し、さらに完成した2基の海上輸送を開始しようとしており、QSTはまさに「地上の太陽」を実現する航海を安全に進める知見を得たのである。

執筆者略歴

核融合発電 第03回 著者近影

量子科学技術研究開発機構 核融合エネルギー部門 
ITERプロジェクト部 超伝導磁石開発グループ 主任技術員
中本 美緒(なかもと・みお)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)卒。超伝導磁石開発及び製作管理に従事。

本記事は、日刊工業新聞 2021年6月10日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 ​量子科学技術でつくる未来 核融合発電(4)巨大超伝導コイル、高精度製作 (2021/6/10 科学技術・大学)