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核融合発電 第04回 史上最強のビーム加速 挑戦

掲載日:2021年7月16日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第04回 史上最強のビーム加速 挑戦

 「地上の太陽」核融合発電では、磁力線のカゴにプラズマを閉じ込めるが、それだけではまだ太陽にはなれない。閉じ込めたプラズマに粒子ビームや電磁波を入射するとプラズマの温度が上昇して核融合反応が始まり、初めてエネルギーを生み出す太陽となるのだ。今回は、その粒子ビームを生成する中性粒子入射装置という巨大なビーム加速装置について紹介する。

 核融合実験炉イーターでは、このビーム加速装置から1.65万キロワットの出力を持つ水素ビームを25m先のプラズマに入射する計画だ。従来の世界最高性能の数倍に当たるこのビーム出力は、厚み1cmの鉄板にわずか1秒で数10cmの穴をあけるレベルであり、まさに史上最強だ。

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 その心臓部は、縦横高さそれぞれ約3mの世界最大の負イオンビーム加速装置だ。磁力線のカゴに外から入るためには、ビームを効率よく中性粒子に変換できる負イオンが最適だ。自然界には珍しい水素のマイナスイオン、負イオンを大量に生成するためには、電子を放出しやすいセシウムの層を堆積させた電極に水素プラズマを照射する。そこに直流100万ボルトの超高電圧を印加すると、電極に開けた直径約1cmの穴1280個から薄ピンク色に見える負イオンビームが加速されるのだ。

 イーターに向けた開発のポイントは、直流100万ボルトの真空絶縁技術、40アンペアの大電流ビームの1時間連続加速技術という未踏の技術だ。特に、100万ボルトの絶縁には大気中だと10m以上の距離が必要である一方、大電流ビームはすぐに広がってしまうため強い電界でビームを絞る必要があり、イーターでは50cmよりも短い距離で100万ボルトを絶縁しなければならないのだ。
 この相反する要求に対し、大面積電極の真空絶縁破壊に関する研究を積み重ね、電極形状を最適化して耐電圧性能の最大化を図ってきた。加えて、長時間安定したビームを加速するために、ミリ単位でビーム軌道を制御するなどの高電圧ビーム加速技術を発展させてきた。
 これにより、100万ボルトのビームを世界で初めて60秒間連続して加速する原理実証に成功したのだ。QSTは、史上最強のビーム加速装置の実現に挑み続けているのである。

執筆者略歴

核融合発電 第04回 著者近影

量子科学技術研究開発機構 核融合エネルギー部門 
ITERプロジェクト部 NB加熱開発グループ 上席研究員
小島 有志(こじま・あつし)

博士(物理学)。これまで、ビーム開発やビームによるプラズマ診断などの研究開発に従事。現在、ITERやJT-60SAなど次世代の高エネルギービーム開発にむけて全力疾走中。

本記事は、日刊工業新聞 2021年6月17日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 ​量子科学技術でつくる未来 核融合発電(5)史上最強のビーム加速に挑戦 (2021/6/17 科学技術・大学)