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核融合発電 第05回 太陽をつくる最強「電子レンジ」

掲載日:2021年7月16日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第05回 太陽をつくる最強「電子レンジ」

 「地上の太陽」をつくるには、最初に着火した数千万度のプラズマを加熱して1億度以上にしなければならない。この加熱方法の一つが、強力な電子レンジでプラズマ中の電子にパワーを注入するやり方だ。

 この最強の電子レンジ「ジャイロトロン」の動作原理は次のとおりである。まず超高真空の円筒状容器、空胴共振器の中に強磁場を作り、ここに超高速の電子ビームを打ち込んで磁場中で螺旋運動させる。
 すると電子の運動エネルギーの一部がマイクロ波と呼ばれる波長1~3mmの電磁波となって放出され、これを窓から取り出して核融合炉まで伝送し、プラズマに吸収させる。核融合実験炉イーターでは、周波数170ギガ(ギガは10億)ヘルツ、出力1000キロワット、電力効率50%で連続動作するジャイロトロンが24機必要だ。

核融合発電 第05回 画像

 ジャイロトロン開発の課題は、電子の運動エネルギーからマイクロ波に変換される電力効率が30%程度で頭打ちという点にあり、残り70%のエネルギーを持つ電子ビームを受け止めるコレクターが冷却しきれず、1000キロワットクラスまで高パワー化できないことであった。
 そして、最大の課題は、高パワー化を達成したとしてもマイクロ波を取り出す窓がそのパワーに耐えられないことだ。マイクロ波のエネルギー密度は約4百万キロワット/m2にも達し、1秒程度で窓材が割れるのである。

 電力効率と高パワー化の課題は、逆転の発想により解決した。コレクターから電圧をかけて電子ビームを減速し、コレクターの発熱を大幅に下げるとともに電子の運動エネルギーも回収した。この結果、電力効率は50%超まで向上し、1000キロワットもの高パワー化も実現できた。
 一方、窓材の課題は人工ダイヤモンド(直径10cm、250カラット)を採用して解決した。ダイヤモンドはマイクロ波吸収率が0.1%と極めて低く、熱伝導率も銅の5倍と高いため、金属との接合方法を工夫して、窓周辺からの冷却のみで熱膨張による破壊を防ぎ、運転時間を百ミリ秒から数百秒へと飛躍的に伸長させた。
 これにより、イーター要求性能の全てを世界で初めて達成し、日本のジャイロトロンは、ついに太陽をつくる必須の主要機器となって、世界最高レベルに到達したのである。

執筆者略歴

核融合発電 第05回 著者近影

量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所
ITERプロジェクト部 RF加熱開発グループ 主幹研究員
池田 亮介(いけだ・りょうすけ)

博士(工学)。マイクロ波加熱研究やジャイロトロン開発に従事。完成したイーター・ジャイロトロンの性能確認試験とイーターへの輸送、現地統合試験に向けて奮闘中。

本記事は、日刊工業新聞 2021年6月24日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 ​量子科学技術でつくる未来 核融合発電(6)太陽作る最強「電子レンジ」 (2021/6/24 科学技術・大学)