量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第06回 超高温プラズマ レーザで内部測定
核融合実験炉イーターの1億度を超えるプラズマを安定に維持するには、内部の磁場構造を正確に把握する必要がある。計測器は挿入できないので、レーザを使って非接触で測定し、一種のコンピュータ断層撮影(CT)を行う。医療用のX線CTでは、人体を通過したX線の強度を人体周りで一周して測定し、骨の位置などを映像化する。
一方でプラズマ計測では、医療用CTのX線の代わりにレーザが最適であり、プラズマを通過したレーザをプラズマの周りで測定し、内部の磁場分布を得るのである。
光の一種であるレーザが、電磁波固有の性質として、プラズマ中を通ると磁場中でらせん運動している電子と相互作用し、そのレーザ光の振動面が回転する現象(「偏光面の回転」)を利用するのだ。
プラズマを通過したレーザ光は、内部磁場を全て経験して受光側に伝える。この回転角の大きさはレーザ光の波長に依存し、波長約百マイクロメートルの遠赤外線レーザを用いると、数10度の測定しやすい回転が生じる。
原理はシンプルに見えるが、超高温プラズマ中の電子の速度が光速に近づくために、相対論的効果が出てレーザ光の振動面が大きく変動してしまうという難課題があった。この「偏光面の楕円化」という現象は、レーザ光を進行方向から見ると、振動面が楕円状に見えることからついた名前だ。偏光面の回転と楕円化は、相互に影響しながらプラズマ内で変化し、長く厄介な未解決問題だった。
図:プラズマ中で生じる偏光面の回転と楕円化
この解決策は意外にも、楕円化を逆手に利用することにあった。磁場と電子温度の変化に対する偏光状態の変化がそれぞれ独特のパターンとなることに着目し、測定した偏光面の回転と楕円化から、レーザ光路上でのプラズマ内部の磁場構造が求められることを初めて示した。
さらにこの手法を用いれば、磁場構造だけでなく、レーザ光路上の電子の密度や温度の分布も同時に得られるという副産物まであった。厄介者と思われていた偏光の楕円化が、実は有益な情報源だった訳で、レーザ計測はこれまで以上に注目を浴びている。考案したレーザによる磁場と電子の密度や温度を同時に計測する手法は、イーターで実験的に検証した後、将来の核融合炉にも役立てるつもりだ。
執筆者略歴
量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所
ITERプロジェクト部 計測開発グループ 主幹研究員
今澤 良太(いまざわ・りょうた)
平成22年入所以来、ITER用レーザ偏光計の研究開発に一貫して従事している。ソフトウェアからハードウェア全ての課題に取り組み、概念設計だった同計測装置を製作可能な成熟度まで引き上げた。
本記事は、日刊工業新聞 2021年7月1日号に掲載されました。
■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(7)超高温プラズマ、レーザーで内部測定 (2021/7/1 科学技術・大学)