量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所は、令和2年11月21日(土)に開催された「サイエンスアゴラ2020」に出展しました。
サイエンスアゴラ2020
「JT-60SAバーチャルツアー ~世界最大の超伝導核融合実験装置を見にいこう!~」
企画概要 |
2020年3月に完成した世界最大の超伝導核融合実験装置「JT-60SA」を見に行こう! 茨城県那珂市にあるJT-60SAのバーチャルツアーと核融合入門講座の2本立てでお送りします。 年内に本格稼働を目指して試験運転中のJT-60SA施設の内部を研究者の解説を交えてお見せします。 核融合入門講座では、核融合の反応のしくみやJT-60SAなどの装置について解説します。ご質問も大歓迎です。
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動画視聴
登壇者
- 花田磨砂也(量研 那珂核融合研究所 副所長)
- 井手俊介(量研 先進プラズマ研究部 部長)
- 司会進行:中川芙美子(量研 那珂核融合研究所 管理部)
プログラム |
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質問コーナー
配信中で回答した質問
Q1. ギネス記録にもなった「5.2億度」はどうやって計ったのですか?
A1. プラズマの光を分析して、温度を求めます。
プラズマから出てくる光の波長を観測することにより、温度を求めることができます。
他にもプローブをプラズマ内部に投入して温度を計る方法もあり、いろいろな方法を組み合わせて、正確な温度を計っています。
Q2. 実験開始後は1日何回プラズマを発生させるのでしょうか?
A2. 1日20ショット程度を予定しています。
運転準備からプラズマ発生終了までの1回のシーケンスで約30~50分程度かかりますが、朝9:00~21:00までを2直体制で、少しずつ条件を変えた実験を行うことで、約20回のプラズマ発生を予定しています。
Q3. JT-60SAはJT-60と比べてどの程度性能がアップしたのですか?
A3. プラズマの圧力が2倍、維持時間が約10倍に性能がアップしました。
プラズマの圧力(温度と密度の積)は約2倍になり、旧JT-60では数億度のプラズマを維持する時間は最長でも10秒が限界でしたが、JT-60SAではコイルを超伝導化するなどの工夫で、100秒以上の連続運転が可能です。
Q4. JT-60SAの耐震設計を教えてください
A4. 震度6にも耐えられる設計です。
原子炉並みの耐震性能が要求されていますので、非常に頑丈に建造されています。
旧JT-60は東日本大震災(那珂市:震度6強)でもビクともしませんでした。
Q5. 正イオンNBI、負イオンNBIを併用する理由はなんですか?
A5. 正イオンNBIはプラズマの「周辺部」、高出力の負イオンNBIは「中心部」の加熱に使用します。
プラズマの密度が高くなると、加熱のためにより高いエネルギーが必要になります。
核融合に必要な高温プラズマの維持には、50万ボルト以上で加速したビームが必要ですが、正イオンを中性化する場合、50万ボルトでは変換効率がほとんどゼロになってしまいます。
一方、負イオンビームの場合は50万ボルトで加速しても60%の変換効率が保てるため、プラズマの「中心部」の加熱に負イオンNBIを使用しています。また、プラズマに電流を流す役目もあります。
正イオンNBIは8.5万ボルトで動作し、プラズマの「周辺部」のイオン加熱を担当します。
Q6. 燃料である重水素、ヘリウム、ベリリウムはどのように投入するのですか?
A6. JT-60SAでは、市販のボトルに詰まった重水素のみを模擬燃料として装置内に投入します。
将来の核融合炉では、海水から抽出した重水素と、リチウムから産みだされた三重水素をガスや氷の形で装置内に投入します。リチウムについては、六ヶ所核融合研究所で海水から抽出する方法を研究開発しています。
なお、核融合炉では、ヘリウムは核融合反応で生成される、いわゆる燃えカスであり、ベリリウムは中性子の数を増やすために使われます。
Q7. JT-60SAとITERは大きさはどのぐらい違うのでしょうか?
A7. 寸法で2倍、重量で約10倍の差があります。
JT-60SAは幅、高さともに約15m、ITERは約30mあります。
ドーナツ状のプラズマの直径はJT-60SAが約6m、ITERは約12mになります。
重量はJT-60SAが約2,600t、ITERが約25,000tなので、約10倍です。
Q8. JT-60SAの運用期間はどのぐらいなのでしょうか?
A8. 20年を予定しています。
20年間しっかり使って、ITERや原型炉の開発に貢献していきます。
Q9. JT-60SAでは三重水素(トリチウム)は使わないのですか?
A9. JT-60SAでは、重水素・軽水素しか使いません。
JT-60SAでは、プラズマの性質、制御方法やプラズマ圧力を高める研究を行います。
重水素と三重水素のプラズマは基本的な性質が同じなので、これらの研究を行うには重水素で十分なのです。
また、三重水素を使うと、核融合反応による中性子で装置が放射化するため、研究のための迅速なアップデートが困難になるのも理由の一つです。
Q10. ITERではどのような燃料を使っているのですか?
A10. ITERでは、実燃料(重水素と三重水素)を使います。
ITERは原型炉や商用炉に繋がるようなエネルギー出力を取り出す実証実験を行いますので、実燃料(重水素と三重水素)を使い、大きな核融合反応を起こします。
Q11. 実用化したときはどのぐらいの間隔で通電することになるのでしょうか?
A11. 常に核融合反応を維持する「定常運転」になるので、間隔は「1年に1回程度」になります。
核融合が実用化した場合には、定常、すなわち長時間の運転が可能となります。核融合発電を継続する運転ができるようになります。
Q12. JT-60SAとITERの役割分担について詳しく教えてください。
A12. ITERは「燃焼プラズマ」の実証、JT-60SAは「高いプラズマ圧力」の実証を担当します。
ITERは実燃料を使って実際に核融合反応を起こし、50万kWのエネルギーを発生させ、原型炉や商用炉で使う「燃焼プラズマ」を実証します。
JT-60SAは、ITERの約2倍の「プラズマ圧力」が得られることを実証し、コンパクトな炉ができることを検証します。
この2つを合わせて、「経済的な発電炉ができる」ことを目指します。
Q13. 「圧力の高いプラズマ」を作る目的はなんですか?
A13. 高出力化、小型化のためです。
同じ炉のサイズであれば、プラズマの圧力が高いほど、大きなエネルギーを生み出せます。
逆に、同じ出力であれば、プラズマの圧力が高いほど、炉のサイズを小さくできます。
炉が小さくなれば、建設コストや建造の難易度も下げることができます。
Q14. 精度が求められるJT-60SAの建設に、どのような工夫がありましたか?
A14. CADの活用、最新の測量技術や特殊な治具を使って、1万分の1(1/10000)の精度を実現しました。
JT-60SAの建造には1万分の1の精度(10mに対し誤差1mm以内)が求められたので、レーザートラッカーを使った測量の基準点を80箇所以上設け、0.5mmの差を測定できるようにしました。
また、輸送中の機器の変形を防ぎ、正確に取り付けるための特殊な治具を製作しました。
さらに三次元のCADを活用して、取付け作業の事前シミュレーションを行いました。
Q15. そこまでの精度が求められる理由は何でしょうか?
A15. プラズマを閉じ込める磁場の乱れを、許容範囲内に収めるためです。
装置の精度が出ていないと、プラズマを閉じ込める磁場に乱れができてしまいます。
磁場が乱れるとプラズマの圧力が変化して不安定になることが、これまでの研究でわかっています。
「磁場の乱れ/磁場全体の大きさ」の許容範囲が1万分の1になるので、装置の精度もそれに準じています。
Q16. IOってなんですか?
A16. ITER機構(ITER Organization)の略です。
ITER機構では職員を募集しています。
詳しくはこちらをご参照ください。
Q17. 温度が高くなったら爆発しないんですか?
A17. 爆発はしません。
「爆発」のように「急激に反応が進む」ことはありません。プラズマの温度が高くなってくるとプラズマから熱が外に出て行きやすくなりますので、「高くなりすぎる」ことはないのです。
むしろ、核融合反応を起こす状態を維持する方が難しいのです。
Q18. 稼働中のJT-60SAの外側の温度は熱くならないのでしょうか?
A18. 本体最外壁(クライオスタット)は室温です。
大気と接触しているクライオスタットは室温です。
クライオスタットの内側にある真空容器は最大200度、超伝導コイルは-270度です。この470度の温度差で発生する熱放射から超伝導コイルを守るため、真空容器との間に熱遮蔽ができるピカピカの層があります。
Q19. 岐阜県にある核融合装置とは何が違うのですか?
A19. 磁場のねじる方法が違います。
JT-60SA(トカマク型)はプラズマの中に電流を流して磁場をねじりますが、
岐阜県の装置(ヘリカル型)はコイル自体をねじっているので、プラズマに電流を流す仕組みが要りません。
Q20. 核融合の勉強をするにはどこの大学がよいですか?
A20. 実験装置を持っている大学、要素の研究をしている大学、理論やシミュレーションでアプローチしている大学など様々あります。
具体的には東京大学、京都大学、九州大学、筑波大学、東北大学などは装置を持っているので、直接核融合に触れる研究ができるでしょう。文部科学省のホームページにリンクがありますので、ご参照ください。
配信中にご紹介できなかった質問
Q. 装置は放射線管理区内との事ですが、JT60の頃から、放射線管理区内にあったのでしょうか。あるいは、使用燃料やプラズマ温度条件の違いで必要になった物なのでしょうか。
A. 以前のJT-60の時から、装置は放射線管理区域内にありました。以前の装置を解体撤去して、同じ建物の中に新しい装置を建設しました。
Q. 核融合反応で発生したヘリウムは、高温プラズマ中ではイオンになっていると思いますが、磁場の壁を通して出てくるのでしょうか。反応エネルギーはどの様に磁場の壁を通過してくるのでしょうか。
A. 核融合の反応は、重水素+三重水素=>ヘリウム+中性子です。
発生した核融合エネルギーの20%をヘリウムが、80%を中性子が運動エネルギーとして分かち合います。ヘリウムはイオンなので、プラズマ中に磁場で閉じ込められて、周囲の重水素や三重水素の燃料プラズマを加熱します。これを自己加熱と呼びます。エネルギーを渡した後のヘリウムは周りのプラズマ粒子と衝突しながら磁場を横切って徐々にプラズマの外に出ていきます。
中性子は、電荷を持たないので、磁場を横切ってブランケットに到達し、そこで冷却水を温めて熱水に変えます。この熱水で、タービンを回して発電します。
Q. 現在ITERの現場に研究者などはいらっしゃるのでしょうか。それとも、まだ建設段階なので別の場所で研究しているのでしょうか。
A. ITERでは、これからの実験運転に向けて運転シナリオや運転方法を検討するために、研究者がいます。
現在、ITERに居る研究者は、各国の研究者と常に協力しながら、世界中の装置とも共同研究を展開しています。JT-60SAの研究者は、ITERと共同研究を行いながら、ITERの実験が始まると、自らITERの実験チームに参加して研究を行っていきます。
Q. 将来核融合炉の実現に向けた研究者になりたいなと考えています。浅はかな考えもあるのですが、実際にフランス現地に行って将来研究者として働きたいなと思っています。先程QSTでは若い研究者の育成を行っているとおっしゃっていましたが、QSTで研究に励めば将来ITERの現場に行けますか?
A. はい!大歓迎です。QSTで研究を行って、ITERに向かう、そしていつか日本に戻ってくるというような人材の流れを作っていきます。