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量子科学技術研究開発機構 設立5周年誌 「QST5年間の成果」

掲載日:2021年9月27日更新
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02最先端技術の融合

目指すはがん死ゼロ健康長寿社会の実現。部門を横断し、民間企業や他機関とも連携して、重粒子線がん治療のさらなる普及に挑みます。

​量子メスプロジェクトの進展

 QSTの前身である放射線医学総合研究所(放医研)は、重粒子線(炭素イオン線)をがん病巣にピンポイントに照射する放射線がん治療で世界をリー ドしていました。この方法は、他の方法では治療が困難な難治がんにも有効で、一般的ながんに対しても短い期間で効果がある治療法です。さらに副作用が少なく、新たながん発生リスクも増加しないなどの利点があります。しかし、装置が巨大で建設費用も高額であるため、世界にもまだ十数施設しかなく、治療を受けられる患者が極めて限られていることが課題でした。

 そこで、「QST未来戦略2016」では「がん死ゼロ健康長寿社会」の実現を掲げ、超伝導技術やレーザー加速技術を取り入れて既存の病院施設にも導入できる小型化を図るとともに、さらに短期間で治療ができるように複数の異なるイオンを照射できる高性能化を進めることにしました。

 この小型で高性能な次世代の重粒子線がん治療装置を「量子メス」と名付け、第2期中長期計画期間内(2020年代後半)の完成を目標に産学連携で研究開発に乗り出しました。

 量子メスの研究開発に当たっては、研究分野が異なる二つの法人が統合された利点を十分に生かし、QSTの各部門が持つ技術を集結することにしました。放医研が培ってきたマルチイオン照射技術により高性能化を図るだけでなく、核融合部門の超伝導竃磁石技術と量子ビーム部門のレーザー駆動イオン加速技術を用いて装置の小型化を進め、重粒子線がん治療を世界に広く普及できる装置を開発するこを目指しました。そのための中核組織として、2016年8月にQST発足後の放医研、量子ビーム科学部門の関西光科学研究所(関西研)などから約50人の研究者が集まり、部門を横断したバーチャルな組織であるQST未来ラボを立ち上げました。

 さらに、QST内の技術を集結するだけでなく、民間企業や他機関とも連携する必要がありました。

 2016年12月に住友重機械工業株式会社、株式会社東芝、株式会社日立製作所、三菱電機株式会社と「第5世代呈子線がん治療装置の開発協力に関する包括的協定」を締結しました。また、未来社会創造事業「粒子加速器の革新的な小型化および高エネルギー化につながるレーザープラズマ加速技術」にも参画しました。量子メスの開発は、研究だけでなく、社会実装を見据えた共同開発の枠組みを構築することに最初から重点を置いてきました。未来ラボ発足から3年間が経過した2019年7月には、より実用化に向けたプロジジェクトとするべく、量子メス革新プロジェクトを発足させました。

量子メス(第5世代)の開発協力に関する包括的協定を締結​

 シンクロトロン(がん細胞に照射する炭素イオンの主加速器)を既存の病院施設内に設置できる大きさにするには、炭素イオンを光の速さ近くまで加速するための電磁石の大幅な小型化が必須となります。QSTは産学連携の共同研究開発体制の下、冷媒に液体ヘリウムを使用することなく高速励磁が可能な超伝導電磁石の開発に、世界で初めて成功しました。これにより、電磁石の小型化が可能になるとともに、冷媒に液体ヘリウムを使わないことから運転やメンテナンスが容易になり、既存病院への普及が大いに期待できます。

 また、関西研の高強度レーザー施設「」ーKAREN」を使い、粒子を加速してシンクロトロンに送リ込む入射器に必要とされるエネルギーまで、レーザー駆動イオン加速技術で炭素イオンを加速できることを確認しました。この技術を使えば、加速には装置の長さを要しません。現在、小型で強度や安定度が高い実証機とともに、高純度炭素イオン発生技術の開発に取り組んでいます。さらに前身の放医研時代に開発した世界初の医療用重粒子加速器「HIMAC」をマルチイオン照射に向けて改修し、臨床試験の準備を進めています。  量子メスの開発は、これまでの要素技術開発のフェーズから、それを実証するフェーズに移行していきます。2023年度から始まる7年間の次期中長期計画期間中には、さらに社会実装フェーズに進めるように、研究開発を加速していきます。

 

 

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