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QST NEWS LETTER - No. 18 ▶Special feature.01

掲載日:2021年10月1日更新
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▶Special feature.01
ITER計画が新たなステージへ

新たなステージへ世界各極の英知と技術の詰まった機器が現地フランスに続々と輸送され、ついに始まったITER(イーター)本体の建設。2025年に予定されるプラズマ生成に向けて、いよいよ始まった、フランスでのITER本体の建設の様子と、日本が製作を担当する2つの機器にスポットを当ててお伝えします。

量子エネルギー部門
ITERプロジェクト部 部長

井上 多加志

量子エネルギー部門 ITERプロジェクト部部長 井上多加志

核融合実用化への道をつなぐITER

 「ITER」はラテン語で「道」のこと。世界7極(日欧米露中韓印)が英知を結集するITERは、核融合反応から発電に必要なエネルギーを取り出せることを実証するための核融合実験炉の名称であり、ITERこそが、過去から未来へつながる核融合研究の長い道のりの現在地であり、最前線であるともいえます。

 核融合は、燃料となる水素ガスをプラズマ状態にして核融合反応を引き起こしますが、ITER では具体的な実証目標が2つあります。1つは、入力エネルギーに対し 10倍の出力が得られるプラズマを 400 秒間維持すること。もう1つは、入力エネルギーに対し5倍の出力が得られるプラズマを1時間持続させることです。これらの目標の達成が、核融合研究が描く未来につながる道の扉を開いていきます。ITER の次の扉は、発電実証を目指す核融合「原型炉」建設。そして、最後の扉が、今世紀中葉の実現を目指す核融合エネルギー発電の実用化です。

ついに炉心本体の組み立てフェーズに突入

 これまで ITER 機構主導の下で参加各極が分担して機器を製作してきました。今はまさに、各機器の製作フェーズから本体組み立てフェーズへの転換期です。2025年に予定される、ITERでの初めてのプラズマ生成、通称「ファーストプラズマ」に必要な主要機器の多くが各極国内での製作を終え、フランスのITER建設サイトへ続々と運び込まれ、ITER機構が主体となって炉心本体の組み立てを開始しました。炉心にはプラズマを閉じ込めるために強力な磁場を発生させる「トロイダル磁場コイル(TF コイル)」が全 18 基組み込まれますが、日本で製作を担当する9基の内、完成した3基がITER建設サイトへ搬入されて組み立てが開始されており、さらに2基がITERを目指して航海中です。

 ITER に搬入した機器が設計通りに機能するかを確認するため、QST は、フランスへ渡って組み立て支援や試験データ取得を行うスタッフと、日本に残り、現地から届くデータを解析して設計と突き合わせ、試験のバックアップなどを行うスタッフに分かれて作業を進めます。そして、これまでに行ってきた ITER用機器の設計・製作や、ITERでの組み立て・性能試験などで得られる知見を蓄積し、ITERの次の段階である原型炉に向けた設計基盤を構築していきたいと考えています。

国際プロジェクトならではの苦労と醍醐味

 世界 7 極で一丸となって進める ITER 計画で痛感したのは、言葉の違い以上に、考え方の違いによるコミュニケーションの難しさです。例えば、何かを製作するにあたり、日本は議論を基にまずモノを作ってみて、その中でわかる課題や問題点を積極的に改良して製作を進めようとします。一方欧州は、設計段階で徹底的に議論して、製作の過程で課題が発生してもなかなか方針を変更せず、完成後に課題も含めた検証を行おうとすることがあります。日本が実際にモノを作って得た知見と欧州が徹底的に議論を尽くした設計が、同じ目標を向いていても時に進め方の議論としてぶつかるのです。言葉には表れないこうした考え方の違いから、議論がなかなか進まないこともありますが、長いプロジェクトの中で、この違いをお互いに認識したうえで議論を進めることで、最終的にはお互いに納得し、より良い方法に辿り着こうという良い雰囲気ができています。いかに大規模な国際プロジェクトといっても、突き詰めれば、お互いを理解し尊重しあう、人と人とのコミュニケーションの基本が何より重要なのです。

知識や経験を伝え、次世代の研究者を後押しする

 ITER計画がジュネーブで産声をあげた1986年、那珂研究所では臨界プラズマ試験装置「JT-60」の加熱実験が開始されました。私が研究者として那珂研究所に入ったのもこの年です。JT-60 で得られた数多くの研究成果は ITER にも反映されていますが、35 年前の運転開始を経験した人は少なくなってきました。これまで、JT-60の運転当時の話をすることは、年寄りが若い研究者を捕まえて「昔は良かった」と昔話をするようで躊躇してきました。しかし、ITERの組み立てが始まり、運転開始が現実味を帯びてきた今、その経験を昔話ではなく、知識やノウハウとして共有し役立てるときが来たのかもしれないと感じています。次世代の ITER計画や核融合研究を担う研究者を後押し、ITERの先の核融合研究を担う世代を立ち上げていくためにも、私自身が得た知識や経験はできる限り彼らに伝えていきたいと思います。

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