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核融合発電 第08回 リチウム、海水・電池から回収

掲載日:2021年7月26日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第08回 リチウム、海水・電池から回収

 核融合炉の燃料の一つである重水素は海水に無尽蔵に存在するが、もう一つの三重水素は自然界にほとんど存在しない。そのため、核融合反応で発生する中性子を炉心近くに置いたリチウムと反応させ、三重水素を自己生産する必要がある。
 陸地で採取できるリチウムには量的に限りがあるが、豊富に含まれる海水中から採取できれば、核融合炉の燃料は実質無尽蔵だ。

 海水に含まれるリチウムの濃度は、主な塩分であるナトリウム濃度の約1万ppm(ppmは100万分の1)に対して約0.17ppmと低く、海水からリチウムのみを効率的に採取する革新的技術が必要だ。

 膜を使った海水中塩分の分離技術を発展させるため、QSTはリチウムを選択的に分離する膜としてイオン伝導体に着目し、海水とリチウム回収液(純水)の間にイオン伝導体を配置し、その両端に電極を密着させた世界初のイオン伝導体リチウム分離法(LiSMIC:Lithium Separation Method by Ionic Conductor)を考案し、リチウム回収装置を製作して海水からの採取に成功した。

核融合発電 第08回 画像

 LiSMICは海水だけでなく、リチウムが含まれる様々な溶液に適用可能な点も大きな特長だ。
 電気自動車(EV)市場の拡大に伴い、リチウムイオン電池が必要とされる一方、その使用済電池が廃棄物として今後大量に発生することが予想され、廃電池からリチウムを回収できれば、リチウムのリサイクルが可能だ。

 廃電池から抽出されたリチウムを含む溶液からの回収速度の向上を目指し、実験を試みた。
 イオン伝導体表面に吸着するリチウムイオン数を増すことがカギだと分かり、溶液をアルカリ性にして吸着を阻害する水素イオンを減らし、表面を化学処理してリチウムイオン吸着促進効果を発現させることで、従来の約200倍にまで回収速度の向上に成功し、産業化への道筋も見えてきた。

 本技術は、核融合炉の燃料の安定確保を目指しつつ、研究のスピンオフとして、日本におけるリチウム資源リサイクルの実現に貢献し、将来不足するリチウムを安価・安定に調達してEV社会を促進する、画期的な未来社会の基幹技術となり得る。
 核融合燃料の採取技術は、そのスピンオフでも今ホットだ。

 

執筆者略歴

核融合発電 第08回 著者近影

量子科学技術研究開発機構
核融合エネルギー部門 ブランケット研究開発部
増殖機能材料開発グループ 上席研究員
星野 毅(ほしの・つよし)

博士(工学)。
核融合炉燃料の三重水素を製造ために必須なリチウム材料の研究に従事。現在、核融合研究の産業応用のため、EV用電池のためのリチウム資源の安定調達を目指す。

本記事は、日刊工業新聞 2021年7月15日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(9)リチウム、海水・電池から回収 (2021/7/15 科学技術・大学)