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核融合発電 第10回 JT-60SA、原型炉の経済性高める

掲載日:2021年8月16日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第10回 JT-60SA、原型炉の経済性高める

 核融合実験炉イーターの運転とその次の原型炉の設計の方向性を決め、核融合エネルギーの実現を加速するプロジェクトが、JT-60SAだ。量子科学技術研究開発機構(QST)那珂研究所で2008年まで稼働し、様々な炉心プラズマ性能の世界記録を樹立したJT-60の本体部分を日本と欧州が共同で改修して進めている。

 SAはイーターと同じ超伝導トカマク装置で、縦横高さそれぞれがイーターの約半分(とは言え高さは約16メートル)の大型装置だ。機器製作などに要した13年間を経て、本体組み立ては2020年に完了し、初プラズマ生成を目指し統合試験運転に着手した。国内に装置が作られる国際協力としては、過去にない規模だ。

 SAの重要な役割は3つある。(1)課題を先取りして解決し、イーターに核融合燃焼の維持という目標を最短で達成させ、(2)核融合炉の経済性を向上させる設計と運転手法をつまびらかにし、(3)研究開発をリードする人材を育成する。

 いずれも10年を越える長期を見通して戦略的に検討を進め、日欧の専門家(15カ国51機関から400人超)が議論と改訂を重ね研究計画を策定した。

 これらの役割を果たせるようSAを設計した。例えば、大型超伝導トカマク装置の工学的・物理学的な課題をイーターに先駆けて解決できるよう、装置を特徴付けるプラズマ形状は、イーターの相似形も実現可能とした(例えば図中の非円形度b/aが同一だ)。

核融合発電 第10回 画像

 こうしてSAで先取りした知見をイーターと原型炉に確実に活かす計画だ。一方、核融合炉の出力はプラズマ圧力の2乗に比例するため、高いプラズマ圧力の実現は核融合炉の出力を維持して炉をコンパクトにする経済性のカギだ。

 そこでSAは、イーターを超えるプラズマ圧力領域の運転にも挑戦できるよう設計した。つまり、SAが高プラズマ圧力下で難しくなるプラズマ制御の課題を解決し、原型炉の経済性を飛躍的に向上させ、その後のコンパクトな商用炉に繋げるのが日本のシナリオだ。

 SAの実験が本格化すると、日本や欧州などから多くの研究者が参加し切磋琢磨する刺激的な現場となる。SAを構成する最先端機器や関連する研究開発については、次回以降詳説する。

執筆者略歴

核融合発電 第10回 著者近影

量子科学技術研究開発機構
核融合エネルギー部門 先進プラズマ研究部
先進プラズマ計画調整グループリーダー

鈴木 隆博(すずき・たかひろ)

JT-60では電流分布計測と電流駆動・定常運転・制御研究等に、JT-60SAでは平衡制御を含む制御システムの開発、研究計画と試験計画の策定、試験の実施等に従事。プラズマが好き。

本記事は、日刊工業新聞 2021年8月5日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(11)JT-60SA、原型炉の経済性高める(2021/8/5 科学技術・大学)