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量子エネルギー部門

核融合発電 第12回 超伝導コイル 高精度配置

掲載日:2021年8月26日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第12回 超伝導コイル 高精度配置

 1億度を超える高温プラズマを100秒間閉じ込めることがJT-60SAの要求仕様だ。それには、290立方メートルものドーナツ状の空間に最大2.25テスラの磁場を発生させる巨大な電磁石「トロイダル磁場(TF)コイル」が18個必要だ。普通の銅線では発熱により消費電力が大きくなるので、電気抵抗がゼロの超伝導線を用いて電流2.57万アンペアを定常的に流し、高温プラズマを閉じ込める。

 プラズマを制御するためには2種類の超伝導コイルが必要だ。一つは、プラズマの位置形状を高精度で制御する電流2万アンペア、直径12メートル、現在世界最大の超伝導コイルを含む「平衡磁場(EF)コイル」だ。精度的には、磁場の不均一性を一万分の一程度に抑える必要があったが、直径10メートルを超えるコイルを、真円からのズレ0.6ミリメートルで製作することに成功した。

核融合発電 第12回 画像

 カギとなる技術は、(1)超伝導導体の曲げ変形特性を考慮した自動巻線機、(2)巻線から全体の絶縁樹脂硬化プロセスまで共通して使用可能な金属容器、(3)真円からのズレを多層巻線間で相殺するようレーザー計測によるフィードバック、の3点だ。

 もう一つの制御用超伝導コイルは、ドーナツ中心部に設置してプラズマに流す電流を制御する「中心ソレノイド(CS)」だ。筒状の小空間に高い磁場(最大磁場8.9テスラ)を発生させる必要があり、このコイルの超伝導導体だけは高磁場性能を持つニオブスズを使用し、他のコイルはニオブチタン製だ。

 コイルを超伝導状態にするには、マイナス269℃近辺まで冷やさねばならない。一方、コイルの電気接続部は超伝導ではないが、コイル超伝導状態の維持には接続部での発熱を抑える必要があり、接続部は成否を決める重要技術だ。この困難は、超伝導線同士を突き合せ接合する方式により電気抵抗を最小化した小型接続部を新たに開発し、克服した。

 2020年11月、ニオブスズ、ニオブチタンのコイルはそれぞれ所定の温度で電気抵抗ゼロの超伝導状態に移行し、今年3月に、TFコイルは2.57万アンペアの定格通電を達成した。
 次は全コイルを同時通電して健全性が確認された後、高温プラズマを用いた実験を開始する。

執筆者略歴

核融合発電 第12回 著者近影

量子科学技術研究開発機構
那珂核融合研究所 トカマクシステム技術開発部
超伝導極低温機器開発グループリーダー

濱田 一弥(はまだ・かずや)

超伝導コイル、超伝導導体、低温構造材料、ヘリウム冷凍システムの研究開発に従事。JT-60SAでは超伝導マグネットと冷凍機システムの運転を統括。

本記事は、日刊工業新聞 2021年8月19日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(13)超伝導コイルを高精度配置(2021/8/19 科学技術・大学)