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核融合発電 第13回 JT-60SA高機能電源 高精度で制御

掲載日:2021年9月9日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第13回 JT-60SA高機能電源 高精度で制御

 核融合反応を起こすプラズマを閉じ込める強磁場は、超伝導コイルに高電圧を印加し大電流を流して作る。1億度以上の超高温プラズマは、粒子や高周波の入射加熱装置に大電力を投入して生成する。この高電圧・大電流・大電力を安全に発生させ、高精度制御し、何らかの異常時には装置を保護するのが、JT-60SAの基幹設備である高機能電源だ。

 この電源は、超伝導コイルと加熱装置に必要な6.5ギガジュール(ギガは10億)もの大きなエネルギー(例えば、フルスピード走行中の新幹線の運動エネルギーは約2.4ギガジュール)を、世界最大級の電動発電機2台(最大回転子重量:約1100トン)にいったん回転エネルギーとして蓄えた後、合計50万キロワットの電力として供給する大規模な発電システムだ。

 以降、JT-60SAの特徴である超伝導コイル用電源について述べていこう。

 発電機から出力された交流電力は、パワー半導体で構成される交流-直流変換器などの機器計34台を実時間(250マイクロ秒周期、マイクロは100万分の1)で高精度デジタル制御し、最大2万アンペアの直流電流を超伝導コイルに供給して、プラズマの位置形状やプラズマ中を流れる電流などの重要諸量を最適にフィードバック制御する。

 超伝導から常伝導に戻るクエンチ現象の発生から超伝導コイルを保護するため、超伝導コイル電源には、コイルのエネルギーを外部の抵抗体で急速に発熱消費させるクエンチ保護回路が不可欠だ。

核融合発電 第13回 画像A

 この開発には、2万アンペアもの直流大電流を高速に遮断し、大電力用抵抗体に電流を移すという困難な技術課題があった。

 課題克服のカギは、半導体スイッチの高速電流遮断性能と機械スイッチの低損失性を利用した「直流大電流遮断用ハイブリッドスイッチ」の考案だ。通常時には損失が小さい機械スイッチに電流が流れ、電流遮断時だけ半導体スイッチに電流を移し、電流を高速遮断するアイデアに加え、機械スイッチの接点が開く時にギャップ間で発生するアーク放電による励起電圧を、半導体スイッチを動作させるためのバイアス電圧として使うという画期的な発想が実現へと導いた。

核融合発電 第13回 画像B

 本電源設備は、2018年に完成、2020年に調整運転を完了した。JT-60SA実験に向け準備万端だ。

 

執筆者略歴

核融合発電 第13回 著者近影

量子科学技術研究開発機構
那珂核融合研究所 トカマクシステム技術開発部
JT-60電源・制御開発グループ 上席技術員

島田 勝弘(しまだ・かつひろ)

2000年入所以来、核融合用電源の研究開発に従事。旧装置JT-60の運転終了後は、欧州と協力してJT-60SA電源設備の設計・製作・試験などに従事。

本記事は、日刊工業新聞 2021年9月2日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(14)JT-60SAの高機能電源(2021/9/2 科学技術・大学)