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全自動インフラ検査 第2回 高強度レーザーを屋外稼働

掲載日:2022年6月2日更新
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量子科学技術でつくる未来 全自動インフラ検査
第2回 高強度レーザーを屋外稼働

打音装置、小型・安定化目指す

 道路トンネルの覆工コンクリートのレーザー打音検査の実現には「高強度レーザーを屋外稼働させる」という難題を解決する必要があった。レーザー加工機やレーシックなどは屋内でのレーザー技術の社会実装の成功例だが、屋外稼働する高強度レーザーに関する研究開発の情報は皆無であり、その難題解決は、研究環境が実験室のクリーンルームである研究者にとって無謀なチャレンジだった。

 量子科学技術研究開発機構(QST)では、新たなチャレンジとして、屋外での高出力レーザーの稼働経験を得るために、QST関西光科学研究所敷地内に設営した大型テント内でレーザー打音装置を約2カ月間稼働させた。この屋外試験に対して、実験室と何ら変わらないと酷評を受けたが、温度・湿度などの環境情報や、振動・騒音から装置を守る防振・防音機構の検証データなど、実験室内では取得できない貴重な経験とデータを得た。

 この知見を基に、4トントラックに発電機、蓄電池、冷却装置、レーザー電源装置および光学定盤を積載した「レーザー打音検査用自走車両」の開発に取りかかった。車両荷台上の振動環境は想像以上に劣悪であり、樹脂製部品の破損による冷却水の噴水や、走行移動後の光学素子の損傷など、不測の事態に対応することになった。

 また、振動環境下で安定したレーザー光路を構築する凸レンズ光学システムによって、道路トンネルの壁面とレーザー増幅システム間で意図しないレーザー増幅が発生するという奇跡に近い物理現象が起きてレーザー結晶が損傷した時は、レーザー工学の奥深さを学んだ。挫折と経験を繰り返す中で、いかなる条件であっても必ず稼働させる覚悟とともに山奥の薄暗いトンネルの中のトラックの荷台上で損傷したレーザー結晶を交換し、レーザーが再稼働した時は得も言われぬ達成感を覚えた。

 QSTでは、トンネル管理者である自治体や検査を行う建設コンサルタント会社および現役のコンクリート点検者から貴重な意見を頂きながら、レーザー打音装置の小型化・安定化などの開発を継続している。その中で防振対策・電子機器類の冷却・高温多湿条件下における結露対策を最優先事項に定め、レーザー打音装置があらゆる環境下でも起動30分程度で稼働できる運用方法について検討し、その最適化を進めている。(木曜日に掲載)

屋外レーザー装置

執筆者略歴

第47回著者

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門 関西光科学研究所
装置・運転管理室 主幹技術員

岡田 大(おかだ・はじめ)

主としてフラッシュランプ励起パルスレーザーシステム開発に従事後、レーザー打音方式を社会実装するための屋外用レーザーの開発・運用に参加。博士(工学)。

本記事は、日刊工業新聞 2022年6月2日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(47)全自動インフラ検査 高強度レーザーを屋外稼働(2022/6/2 科学技術・大学)