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量子技術基盤研究部門

未来のクルマ 第1回 量子ビームで材料開発

掲載日:2022年6月16日更新
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量子科学技術でつくる未来 未来のクルマ
第1回 量子ビームで材料開発

レアメタル不要、機能向上

 未来のクルマでは、地球環境を守るために脱炭素化をさまざまな要素から進めることが必要だ。そのため、量子科学技術研究開発機構(QST)では水素貯蔵材料や燃料電池触媒など、さまざまな装置・機器の要素となる「材料」の開発を、「量子ビーム」を用いたユニークな方法で行っている。

 最近、水素貯蔵材料探索では、資源量豊富な金属でかつ難水素化金属の代表でもあるアルミニウムと鉄を組み合わせた合金で水素が蓄えられることを発見し、従来必要としていたレアメタルを使わない新材料の実現の扉を開いた。この発見は、量子ビームの一つである放射光X線という強力なX線ビームで、日常とはかけ離れた高温高圧の世界を見ることによってもたらされたものだ。

 量子ビームであるイオンビームなどの照射により、材料の機能を向上させる開発も行っている。燃料電池触媒の省白金化に向けて、白金自体ではなく、保持する炭素材料の方を改質させるという新発想のもと、イオンビーム照射で炭素材料に欠陥を制御しながら導入することで、白金の活性向上を実現した。

 ガンマ線などの照射による放射線グラフト重合では、高強度な高分子基材の特性を維持したまま、新機能を付加できる。鉄などの安価な触媒が使えることで期待されるアニオン型の燃料電池では、電解質膜の劣化が課題だが、この技術を活用して高耐性化を進展させた。

 未来のクルマでは、自動運転など今後のバリアフリー社会に役立つスマート化も重要だ。そこで必要となる高度な制御・情報処理のために、さまざまな電子・磁気デバイス開発が行われている。QSTでは、それらに役立つ技術として、先端デバイスの機能発現のポイントを観察できる新しい顕微計測法を開発している。

 放射光X線を用いた顕微磁気計測法では、最近、深さ方向に原子1層ごとの磁気を観察できるまでに至り、多数の膜からなるデバイスにおいて性能の決め手となる界面でも原子層単位で分析できる未踏の技術領域を開拓した。

 加えて、国内最高輝度の軟X線のナノビームが利用できる次世代放射光施設(愛称:ナノテラス)が現在建設中だ。電子の性質を調べるのに適した軟X線による顕微計測が可能となり、デバイスの欠陥付近の電子の性質などがナノレベル(ナノは10億分の1)で解明できると期待される。この連載では、以降、これらの話題を詳しく紹介していく。(木曜日に掲載)

新開発の原子層単位での磁気分析装置

執筆者略歴

第49回著者

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門 関西光科学研究所
放射光科学研究センター長

綿貫 徹(わたぬき・てつ)

放射光X線を用いた非破壊の微視的観察技術の開発と、それを用いた物質の中のナノメートルの世界の現象解明の研究に従事。博士(理学)。

本記事は、日刊工業新聞 2022年6月16日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(49)未来のクルマ 量子ビームで材料開発(2022/6/16 科学技術・大学)