量子科学技術でつくる未来 超省エネスマホ
第1回 スピンフォトニクスで実現
充電不要、バッテリー不安解消
スマートフォンの進化は目覚ましい。スマホが1台あれば、情報の検索に始まり、メールの送受信にも不便はない。お財布機能で現金を必要としない生活も可能だ。新しいアプリも次々登場し、便利な機能がますます充実している。
一方で、悩みの種はバッテリーの消費だ。気になるレストランをチェックし道順を調べる。注文した料理が出てくればすかさず撮影してアップ、すぐに友人からチャットが届き、やりとりが弾む、1日遊んで、帰り電車に乗ろうとしたら、バッテリーの残量が―。という経験をしたことがある方も多いのでは。
スマホの中には、半導体中の電荷を制御して情報の処理や記録を行うエレクトロニクス技術がつまっている。電荷は電子が持つ性質だ。つまり、スマホの中では、電子が高速で移動し、保持されている。電子が動くことによる発熱と、電子を保持しておくためにエネルギーが使われ、バッテリーを消費する。バッテリーを長持ちさせるためには、電子が動くことと電子を保持することからの解放が不可欠なのだ。
そこで注目されるのが、電子が持つスピンという性質だ。スピンは磁性(磁石)のもとであり、スピンの向きがそろった材料は強磁性体と呼ばれ、磁石にくっつく。スピンの向きを制御・固定すると、情報維持のための再書き込みが要らない不揮発性メモリーを実現できる。このようにスピンを活用する技術がスピントロニクスである。しかし、現状のスピントロニクスはスピンの制御に電荷を使用しており、究極の省エネには至っていない。
量子科学技術研究開発機構(QST)は、究極の省エネを実現するために、フォトン(光)を利用した最先端技術であるフォトニクスとスピントロニクスを融合したスピンフォトニクスを提案している。
スピンフォトニクスでは、フォトンによりスピントロニクス材料の磁性を制御することで情報を書き込み、さらに超微弱な磁場検出が可能な量子センシングを読み出しに活用する。加えて、熱が発生しないスピン流を用いることで、メモリーだけでなくプロセッサーへの展開も可能だ。つまり、スピンフォトニクスで充電要らずの究極のスマホが実現できる。
本稿を含め7回の連載で、スピンフォトニクスデバイスを構成する要素技術や材料、さらには、その材料開発を支える評価技術などを紹介する。(木曜日に掲載)
執筆者略歴
量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所
先端機能材料研究部部長
大島 武(おおしま・たけし)
宇宙用の太陽電池や電子デバイスの放射線劣化・誤動作や、放射線を活用した材料の機能化、例えば、粒子線によるダイヤモンドや炭化ケイ素(SiC)中に量子ビットや量子センサー形成に関する研究に従事。博士(工学)。博士(工学)。
本記事は、日刊工業新聞 2021年11月4日号に掲載されました。
■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(22)超省エネスマホ スピンフォトニクスで実現(2021/11/4 科学技術・大学)