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超省エネスマホ 第2回 2次元物質を磁気メモリーに応用

掲載日:2021年11月11日更新
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量子科学技術でつくる未来 超省エネスマホ
第2回 2次元物質を磁気メモリーに応用​

2次元物質を磁気メモリーに応用

 今日、IoT(モノのインターネット)の普及に伴い身の周りで消費されるデジタルデータの量は年間数十%の勢いで増加している。増え続ける莫(ばく)大な情報を記憶するため、より大容量で電力消費が少ないメモリーの開発が必須となる。中でも、ハードディスクや磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)などの磁気メモリーは、電源がなくても情報を維持できる不揮発性という特長からIoT社会を支える記憶デバイスとして期待される。

 磁気メモリーには、電子が持つスピンが磁石と同じように向きを持ち、電流に乗って流れる性質を活用するスピントロニクスと言う技術が採り入れられており、素材には磁石の性質を持つ磁性体が使われ、情報は磁極の向きとして恒久的に保持される。書き込みは、厚さがナノメートル(ナノは10億分の1)程度の磁性体と非磁性体を積層した構造に電流を流し、電流によって生じたスピンの流れ(スピン流)を利用して磁性体の磁極の向きを変化させる。磁極の向きによりスピン流の流れやすさ(電気抵抗)が異なるので、電気抵抗を測ることで書き込まれた情報が読み出せる。

 現在の磁気メモリーで、磁性体に使われているコバルト鉄合金はスピン流の生成能力が低く、非磁性体に使われている酸化マグネシウムはスピン流を流しにくいため、情報の書き込みや読み出しの高効率化や低消費電力化が難しい。

 これに対して、量子科学技術研究開発機構(QST)では、磁性体と非磁性体の新材料として、スピン流の生成能力が高いホイスラー合金とスピン流を流しやすい2次元物質を磁気メモリーに応用する研究に取り組んでいる。2020年には強磁性を示すホイスラー合金と2次元物質のグラフェンの積層に世界で初めて成功し、書き込みや読み出しに要する電力を大幅に削減し、超低消費電力化を実現する素子の開発を進めている。

 磁気メモリーに2次元物質を用いることは、スピン流を流しやすいことが素子の低消費電力化に繋がること以外にも大きなメリットがある。次世代のIoT技術としてネットワークから端末までの情報処理を全て光ベースで行うオールフォトニクス・ネットワークが提唱されている。

 この次世代技術は、光を生かした高速な情報処理が期待できるが、光は止められないので難点は記憶の保持だ。最近、2次元物質に光を照射するとスピン流が発生することが発見された。QSTでは、この性質を利用した光による書き込みが可能なオールフォトニクス・ネットワーク対応の磁気メモリー開発に着手している。(木曜日に掲載)

グラフェンとホイスラー合金からなる磁気メモリ基本構造

執筆者略歴

第23回著者

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所 
先端機能材料研究部 プロジェクトリーダー 

境 誠司(さかい・せいじ)

2次元物質や新規磁性材料などのスピントロニクス材料の研究、および、放射光や原子ビームなどの量子ビームを用いた材料・デバイス評価技術の開発に従事。博士(工学)。​

本記事は、日刊工業新聞 2021年11月11日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(23)超省エネスマホ 2次元物質を磁気メモリに応用(2021/11/11 科学技術・大学)