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超省エネスマホ 第3回 量子センシング ダイヤで超高感度

掲載日:2021年11月4日更新
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量子科学技術でつくる未来 超省エネスマホ
第3回 量子センシング ダイヤで超高感度

 ダイヤモンド。その光輝く姿は宝石の中の宝石ともいえ、多くの人を魅了している。このダイヤモンドが超高感度なセンサーとなることをご存知であろうか。それが今回のテーマ「量子センシング」である。

 ダイヤモンドは炭素原子だけで構成され、宝石の価値で言うと不純物を含まず、完全な結晶で、より大きなものが高価とされる。一方、量子センシングの観点での価値観はまったく異なる。顕微鏡で見なければいけないほど小さく、完全な結晶中に欠陥が存在することが重要なのだ。

 この欠陥は、窒素―空孔(NV)センターと呼ばれるもので、本来は炭素原子があるべきところに窒素原子が存在し、その窒素原子の隣の炭素原子が欠損している。NVセンターは赤色に発光する特徴を持ち、たったひとつのNVからの発光でも検出できる。つまり、大きさが100万分の1ミリメートルという超微小なセンサーを使って100分の1ミリメートルほどの大きさしかない細胞でも局所温度を測ることが可能となる。さらに、NVの数で感度は変わる。NVを高濃度化すれば地磁気の100万分の1しかない超微弱磁場も計測可能となり、心臓や脳のモニタリング用センサーも期待できる。

 なぜ、こんなに小さく高感度なセンサーがつくれるのか?それは、前回のスピントロニクスで紹介した電子のスピンの流れ(スピン流)の性質が関係する。電子のスピンは環境に影響されやすく、ちょっとしたことで秩序を乱すため、スピン流をつくって制御することは非常に難しい。ところが、この環境変化に敏感という特徴は、センサーをつくるには好都合だ。NVセンターは電子の状態により発光強度が変化するので、発光強度を測定して磁場や温度の変化を正確にモニターする超高感度なセンサーが実現できる。

 超微小領域でも超高感度にセンシングできるということは、量子センシングを活用した省エネ・小型デバイスへの展開も可能となる。量子科学技術研究開発機構(QST)では、磁性材料メモリーの情報(磁化の向き)を量子センサーで高効率に読み出す新しい超低消費電力デバイスを提案し、開発を進めている。(木曜日に掲載)

ダイヤモンド中のNVセンター

執筆者略歴

第24回著者

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所 
先端機能材料研究部 部長 

大島 武(おおしま・たけし)

宇宙用の太陽電池や電子デバイスの放射線劣化・誤動作や、放射線を活用した材料の機能化、例えば、粒子線によるダイヤモンドや炭化ケイ素(SiC)中に量子ビットや量子センサー形成に関する研究に従事。博士(工学)。

本記事は、日刊工業新聞 2021年11月18日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(24)超省エネスマホ 量子センシング ダイヤで超高感度(2021/11/18 科学技術・大学)