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超省エネスマホ 第5回 レーザーでスマート加工

掲載日:2021年12月2日更新
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量子科学技術でつくる未来 超省エネスマホ
第5回 レーザーでスマート加工

新機能付与/少量多品種を製造

 半導体の超微細加工の光源としてEUV(極端紫外線)レーザーの開発が進むことを前回紹介した。レーザーによる微細加工技術は、半導体以外のさまざまな分野で新たな機能付与や少量多品種のスマート加工を可能にすると期待されている。量子科学技術研究開発機構(QST)では、文部科学省の光・量子飛躍プログラム(Q-LEAP)「先端レーザーイノベーション拠点『光量子科学によるものづくりCPS化拠点』」などに参画し次世代レーザー加工技術の開発を推進している。

 レーザー加工では、レーザーによる加熱(物質内の電子励起)の後、熱の拡散と、急激な膨張により弾き飛ばされ剥離と飛散が起こる。精密なレーザー微細加工を施すには、加工精度を下げる熱拡散による融解が少ない非熱加工により、エネルギーを熱拡散が起こる前に局所的に短時間で与える必要がある。

 これを実現するためには、レーザーによる物質内の電子励起についての精緻な理解が不可欠だ。SALMON(光物質相互作用・第一原理計算シミュレーター)は、QSTが筑波大学などと共同で開発している、光と電子の運動を基礎的な物理法則のみから計算できる世界唯一のプログラムである。

 例えば、非熱的な高精細加工の実現が望まれる石英ガラスによく利用される波長800ナノメートル(ナノは10億分の1)の近赤外レーザーを5フェムト秒(フェムトは1000兆分の1)照射した時、加工深さが100ナノメートル以上にならない事を実験との誤差数%で再現するなど、さまざまな条件下で行うレーザー加工について、実際の試験を行わずとも、どのようなことが起きるかを精度良く予測することを可能にした。

 狙った加工を最小限のエネルギーと工程で行う条件の決定は単純ではなく、波長、レーザーパルス幅、偏光、表面状態など多くの変数の最適条件を探す必要があり、職人の経験による部分が大きい。しかし、少量多品種製造ではさまざまな素材に狙った加工を施す必要があり実現は難しい。シミュレーションによる条件決定ができれば、開発の大幅な短縮につながる。

 現在、SALMONで得られるエネルギー分布などを利用して、より大きな時空間領域での現象を扱える理論や、物質の形状変化を再現するプログラムの開発を進めている。(木曜日に掲載)

レーザー加工のメカニズム

執筆者略歴

第26回著者

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門 関西光科学研究所 
光量子科学研究部 上席研究員

乙部 智仁(おとべ・ともひと)

光と物質の超高速非線形相互作用の量子力学に基づく数値計算と解析、その総合的シミュレーションプログラムSALMONの開発・研究に従事。博士(理学)。

本記事は、日刊工業新聞 2021年12月2日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(26)超省エネスマホ レーザーでスマート加工(2021/12/2 科学技術・大学)