小安重夫（こやすしげお）
1978年に東京大学理学部生物化学科を卒業し、同大学院に入学。岡田吉美教授に師事し、コーロバクタｰ(Caulobacter)のペニシリン結合タンパク質と鞭毛の研究に従事。1981年、博士課程2年次に中退し東京都臨床医学総合研究所へ入所、細胞周期プロジェクト（後に細胞生物学研究部門）の矢原一郎博士の下で細胞周期の研究に従事。実験材料としてリンパ球を用いたことから免疫学への興味を抱き、1988年ハーバード医科大学 ダナファーバー癌研究所（Dana-Farber Cancer Institute）に留学、本格的に免疫学の研究を開始、Ｔ細胞の分化機構やT細胞受容体を介したシグナル伝達機構の研究に従事。1990年同大学助教授、1995年同大学准教授を経て1995年10月に慶應義塾大学医学部 微生物学教室（後に微生物学･免疫学教室）教授に就任。以降、感染免疫研究を中心テーマに据え、自然免疫と獲得免疫の橋渡しの分子機構について研究。
特筆すべき成果は寄生虫感染時に自然免疫反応を司る2型自然リンパ球（ILC2）の発見（1）。自然リンパ球（Innate Lymphoid Cell: ILC）とは抗原受容体を持たず、抗原ではなく周囲の細胞が産生するサイトカインに反応するリンパ球。ILC2は上皮細胞が分泌するインターロイキン（IL）-33やIL-25に反応して大量のIL-４，IL-5、IL-13などの2型サイトカインを産生することで、寄生虫に対する自然免疫反応に関わる。寄生虫感染に対する防御反応のみならず、ぜんそくなどのアレルギー性炎症にも関わる細胞として注目され、世界中で研究が行われるようになった。自然リンパ球の嚆矢は半世紀前に発見されたナチュラルキラー細胞であるが、2010年前後に異なるセットのサイトカインを産生する自然リンパ球が次々と見つかったことから、この分野の研究者達で、γ型インターフェロンを産生する自然リンパ球を1型自然リンパ球（ILC1）、2型サイトカインを産生する自然リンパ球を2型自然リンパ球（ILC2）、IL-17やIL-22を産生する自然リンパ球を3型自然リンパ球（ILC3）と分類した（2, 3）。
その間、2011年に（独）理化学研究所 免疫･アレルギー科学総合研究センター(RCAI)の副センター長（非常勤）に就任、理研に研究室を開設（免疫細胞システム研究グループ）。2013年に慶應を辞し、新たに設置された（独）理化学研究所 統合生命医科学研究センターのセンター長代行、センター長、その後、2015年から2023年まで（国研）理化学研究所理事。研究担当理事、統括担当理事として数理科学・物理学から生物学・医科学まで幅広い分野の研究およびスーパーコンピュータや放射光施設などの大型基盤施設の開発を俯瞰する機会を得た。
日本学術会議会員（第二部）、日本免疫学会理事長、国際免疫学会連合理事、アジアオセアニア免疫学会連合理事長などを歴任。
（１）Moro, K., Yamada, T., Tanabe, M., Takeuchi, T., Ikawa, T., Kawamoto, H., Furusawa, J.-I., Ohtani, M., Fujii, H. and Koyasu, S. Innate production of Th2 cytokines by adipose tissue-associated c-Kit+Sca-1+ lymphoid cells. Nature 463: 540-544 (2010). (doi: 10.1038/nature08636)
（２）Spits, H., Artis, D., Colonna, M., Diefenbach, A., Di Santo, J. P., Eberl, G., Koyasu, S., Locksley, R. M., McKenzie, A. N., Mebius, R. E., Powrie, F. and Vivier, E. Innate lymphoid cells - a proposal for uniform nomenclature. Nat. Rev. Immunol. 13: 145-149 (2013). (doi: 10.1038/nri3365)
（３）Vivier, E., Artis, D., Colonna, M., Diefenbach, A., Di Santo, J. P., Eberl, G., Koyasu, S., Locksley, R. M., McKenzie, A. N. J., Mebius, R. E., Powrie, F. and Spits, H. Innate lymphoid cells: 10 years on. Cell 174: 1054-1066 (2018). (doi: 10.1016/j.cell.2018.07.017)