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量子科学技術研究開発機構 設立5周年誌 「QST5年間の成果」

掲載日:2021年9月27日更新
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05QSTの強みで拓く量子科学技術のフロンティア

QSTの強みは、放射線・量子ビームと物質や生命との相互作用における物理・化学・生物過程に関する理解や研究開発において世界のトップクラスに位置していることです。この強みを生かして最先端の研究開発を進めています。

3.量子で拓く新技術


 「QST未来戦略2016」は、量子ビームの「創る」「観る」「治す」機能を総合的に活用して、材料・物質科学、生命科学、医学等の幅広い分野における革新的成果の創出・普及を推進するという方針を示しています。この方針に沿い多種多様な量子ビームを活用することで、豊かで安全な未来社会の創造を推進しています。代表的な成果として、高強度レーザーの開発やその周辺技術の産業応用、放射性同位元素(RI)を利用した革新的な計測技術の開発などで世界を先導する成果を創出してきました。

科学の最前線を拓く高強度レーザーとその産業応用

 世界最高性能の高強度レーザーを開発し、それを用いることで初めて可能となる超高強度場科学の研究に取り組んでいます。超高強度場科学とは、高強度レーザーでしかつくり出すことのできない超高強度場における相対論的現象の解明や、極短パルスのレーザーを使った超高速現象の観察、物質の制御などの極限状態における最先端科学です。この極限の科学から生まれた高強度レーザー技術を医療や産業に役立てます。その具体例が、量子メスの主要技術であるレーザー駆動イオン加速技術やレーザー打音によるコンクリート検査技術です。

 レーザー駆動イオン加速技術は、関西光科学研究所の超高強度レーザー装置、J-KARENの世界最高品質の集光性能を生かして開発を進めています。J-KARENは、30J(ジュール)のレーザーエネルギーを30f(フェムト)秒(1f秒は1秒の1000兆分の1)の時間に閉じ込めることにより1000兆Wの超高強度を実現できます。実験条件の最適化により、高強度レーザー光による世界最高値の雷雲の10億倍となる強烈な電場の発生や、45価の銀イオン生成、そして、これまでで最大となる光速の20%までの加速を実証しました。量子メスの実現に向けて、このような技術を積み重ねていきます。

 また、レーザー打音検査技術は、国土交通省がインフラの定期点 検の支援技術をまとめた「点検支援技術性能カタログ」に非破壊検査技術(トンネル)として掲載されたもので、レーザーをトンネル壁に照射したときに生じる振動を、別のレーザーにより計測する、均一性の高い我が国独自の技術です。民間企業による実際の道路トンネルの定期点検業務で、国内で初めて診断支援に活用されました。産業界への技術移転により、社会実装を進めています。

コンクリートの壁面をレーザーで叩き、その振動をレーザーで検出することで検査を行います。道路トンネルで行うためにトラックの荷台に積載しても安定に動作するレーザーシステムを開発しました。

レーザー発振している高強度レーザーJ-KAREN。発生する光自体は赤外光ですが、励起するための緑色の光が漏れ出て全体が緑色に光っています。​

放射光でみる原子一層の磁気構造

 放射光を利用した精密計測技術として新たに開発したのが、従来のメスバウアー分光では困難だった、材料の表面付近の磁性を一原子層単位という、まさに原子のレベルの精度で調べることができる、放射光メスバウアー効果を利用した計測技術です。この計測技術を活用した超高真空放射光メスバウアー装置で、磁石の代表とも言える鉄について、これまで謎だった表面付近の磁性を詳しく調べた結果、表面から奥に向かって一原子層ごとに磁力が増減している複雑な現象を世界で初めて計測することに成功し、この現象が約40年前に理論的に提案されていた「磁気フリーデル振動」であることを突き止めました。

土の中のミラクルワールド「根圏」を観る

 生体内でのものの動きから生命現象の理解を試みるため、放射性同位元素(RI)を用いたRIイメージング技術の研究開発を進めています。たとえば、植物は地中で土や微生物に対して能動的に働き掛けることで、根の周辺の生育環境を最適化し、養分の獲得・吸収をしやすくしようとします。その様子を知ることは、学術的には植物の生理や栄養獲得の仕組みを理解することにつながり、その知見を基として実学的には農作物の生産性や品質の向上につながります。しかし、植物が生育する上で重要な役割を果たす根という組織の活動の様子を、これまで目で見ることができませんでした。そこで、土や植物の中にあっても、その存在を検知できるRIを使ったさまざまな化合物を植物に取り込ませてその動きを調べるRIイメージング技術を発展させて、根が周りの土に放出した分泌物を観察する「根圏イメージング」という手法を開発しました。これにより、地中の根が土と微生物に分泌物を介して働き掛けている様子を世界で初めて撮影しました。図をご覧になると分かるようにルーピンとダイズでは光合成生産物の根への運ばれ方、根周辺への分泌物の違いから適応する土壌環境の違いが説明できます。この革新的な観察手法で、根圏を形成する根、土、微生物の栄養分を巡る相互作用と植物の生存戦略を明らかにし食料問題の解決に貢献していきます。

 

 

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