量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第11回 JT-60SA主要機器 高精度で設置
JT-60SAは2020年3月末に主要機器の組み立てを完遂した。構成機器は、超高真空を維持し超高温プラズマを閉じ込めるドーナツ状の真空容器、プラズマを生成し閉じ込める磁場を発生する3種類合計28個の超伝導コイル、マイナス269℃に冷却された超伝導コイルへ熱を侵入させない真空断熱用クライオスタット容器と熱遮蔽体など、いずれも大きさ十数メートル、重さ数トン~百トン超と巨大だ。
組み立て技術のカギの一つ目は、いかに組み立てる機器の位置を高精度で測定し、それを実現するかである。なぜなら、超高温プラズマを閉じ込める強力な磁場には幾何学的な構造も含めて1万分の1までの正確さが必要だからだ。それは、大きさ十数メートルの超伝導コイルを数ミリの精度で製作・設置することを意味する。
また、超高温プラズマから熱を受ける炭素タイルの据え付けにも1ミリメートルの精度が必要となる。そこで、3次元位置測定機・レーザートラッカーを導入し、縦・横・高さ40メートルの建屋内に約40点の基準点を設けることで0.5ミリメートルの高精度測定を可能とした。
これで得た高精度測定データとコンピュータ支援設計(CAD)設計値を比較し、ボルト穴の位置などを決定した。
技術のカギの二つ目は、高精度測定の結果を反映して計算機の中に構築されたモデルだ。CADモデル化した部品数は約10万点を超え、建屋などの環境もモデル化した。ここからが、CADモデルの威力が発揮される部分だ。機器製作部署間でCADモデルを共有して機器の取り合い箇所を確認し、各機器間の干渉を回避。搬入動線などを評価することで高精度組み立てをモデルの中で実現し、実際の作業計画に反映した。
その典型例がある。中心ソレノイド(高さ約12メートル、直径約3メートル、重量100トン超)というドーナツの穴の部分に挿入する超伝導コイルは、周りとの隙間がわずか14ミリメートルという狭隘な空間に接触することなく挿入し、その誤差2ミリメートル以内という高精度で組み立てた。まさに針の穴のど真ん中に糸を通すかのように。
(左上)中心ソレノイド組立 (右)JT-60SAを構成する主要機器
(左下)1ミリの制度で据え付けた炭素タイル
JT-60SA組み立てで得られた経験と知見は、核融合実験炉イーターの組み立てに貢献しており、将来の原型炉建設においても礎となる日本の先端技術だ。
執筆者略歴
量子科学技術研究開発機構
核融合エネルギー部門 トカマクシステム技術開発部
JT-60本体開発グループリーダー
松永 剛(まつなが・ごう)
2008年まで運転していたJT-60ではプラズマ物理、プラズマ計測の研究開発に従事。2010年以降、JT-60SA機器の設計と本体組立を主導。博士(工学)
本記事は、日刊工業新聞 2021年8月12日号に掲載されました。
■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(12)JT-60SA(2021/8/12 科学技術・大学)