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核融合発電 第15回 AIで高速・高精度化

掲載日:2021年9月24日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第15回 AIで高速・高精度化

 核融合炉が生み出すエネルギー量はプラズマの密度・温度で決まるため、その予測はプラズマの性能評価に不可欠だ。巨大なドーナツ状のプラズマ中では、電磁場の影響などを受けて、電荷を帯びた多数の粒子の向きや速度が時々刻々変化する。これにより、粒子・熱の流れ、すなわちプラズマ中に「輸送」が生じ、密度・温度の分布が形成される。この輸送の物理機構がわかれば、予測は原理的に可能だ。

 輸送は電磁場の他にもさまざまな物理現象と相互作用するため、それぞれの物理現象を表す数理モデルを連成して矛盾なく解くことにより、密度・温度を予測できる。輸送を最も高精度に扱う計算コードでは、5つの独立変数を持つ関数の時間発展を解く計算(第一原理計算)を行い、1つの結果を得るためにスーパーコンピューターを用いた高並列計算で数日以上を要する。

 他の数理モデルとも連成する場合、モデル間で結果のやりとりを数千から数百万回行うため、第一原理計算の利用は事実上不可能であり、その簡約化版の数理モデルが用いられてきた。しかし、それでも密度・温度の予測に数日かかることもあり、予測結果を実験条件にフィードバックするための現実的な要請、数時間以内にはほど遠い。

 そこで登場するのが、予測精度を落とさずに計算時間の短縮を実現できるAIの中核技術と言われる機械学習だ。現在では、簡約化された数理モデルの入力である多数の物理量と出力となる輸送量との膨大な数の組み合わせを学習することにより、1万倍程度も高速に入出力の関係を再現するAIモデルが実用化されている。

 しかし、これでは出力の背景にある輸送の物理機構がわからない。そこで、密度分布に起因する項と温度分布などに起因する項に分けて表式化した輸送モデルを考案し、スーパーコンピューターを用いて学習データを準備した。こうして得られたAIモデルにより、計算の高速化に成功すると同時に、プラズマ密度・温度挙動を短時間かつ高精度で予測可能としたのだ。

核融合発電 第15回 画像

 JT-60SAや核融合実験炉イーターでの実験予測も行っている。さらに原型炉に向けても、設計段階では発電量の予測に、運転段階では核融合反応の実時間制御に適用されることが期待される。

 

執筆者略歴

核融合発電 第15回 著者近影

量子科学技術研究開発機構(QST)
那珂核融合研究所  先進プラズマ研究部
先進プラズマモデリンググループ 主任研究員

成田 絵美(なりた・えみ)

プラズマ中の輸送現象を対象とした数理モデル及び他の物理現象の数理モデルと連成させた計算コードの開発に従事。

本記事は、日刊工業新聞 2021年9月16日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(16)AIで高速・高精度化(2021/9/16 科学技術・大学)