量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第16回 原型炉実現へ急加速
半世紀にわたる核融合発電に向けた世界中の研究開発による最大の成果は、核融合が発電所となるのに必要な炉心規模の知見を得たことだ。この性能と装置規模との関係(「スケーリング則」と呼ぶ)に基づき、核融合実験炉イーターは50万キロワットの熱出力を想定している。初めて本格発電する原型炉も、同スケーリング則に基づき構想され、その概念設計段階から、商用電力系統への投入に必要な発電プラントとしての完備性が重要な課題だ。
原型炉の建設計画は、2050年頃の運転開始に向け、2025年頃に工学設計・実規模技術開発段階への移行、2035年頃の建設移行判断という日本の原型炉開発ロードマップに従っている。
一方、最近の異常気象の増加を背景に、気象変動防止に向け2020年から世界中の国々で始まったカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現政策に呼応して、基幹エネルギーとなり得る核融合への強い期待の高まりから、原型炉実現急加速の動きが活発だ。地球環境適合性に優れ、高い安全性を持つことも、核融合エネルギーへの高い期待の要因である。
原型炉設計では、広範な研究開発分野を相互に連携させ、統合する必要がある。そのためにイーターとJT-60SAという2つの大型装置における機器製作、組立て、運転、実験から得られる知見を最大限に利活用して加速するのが日本の戦略だ。
日欧協力で原型炉の共通の技術的課題の検討を進める一方、国内の大学、企業からの参加者で構成される「原型炉設計合同特別チーム」で日本の原型炉概念設計と必要な研究開発を全日本体制で行っている。これらの活動により、2019年に発電端出力64万キロワットの日本の原型炉JA-DEMOの基本概念を明確化した。
冒頭に述べたように、原型炉設計は国際競争の様相を呈しつつあり、イーターやJT-60SAといった装置の実験データの解析や高度な制御の先端技術がその競争力の礎だ。例えば、イーターは数百ペタバイト/年(ペタは千兆)もの膨大な実験データを生成すると予想される。そのため、このような大規模データを扱えるスーパーコンピューターなどの整備を含め、総合的な原型炉設計の推進環境が各種課題の克服と研究開発の国際競争力強化に必須といえる。
執筆者略歴
量子科学技術研究開発機構(QST)
核融合エネルギー部門 核融合炉システム研究開発部 次長
石井 康友(いしい・やすとも)
博士(工学)。プラズマ理論研究、スパコンセンターの運営を経て、(日欧)国際核融合エネルギー研究センターの日本側運営、原型炉開発の管理などを担当。1日も早い原型炉の実現を目指す。
本記事は、日刊工業新聞 2021年9月23日号に掲載されました。
■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来 核融合発電(17)核融合発電、原型炉実現へ急加速(2021/9/23 科学技術・大学)