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核融合発電 第17回 原型炉設計 条件整う

掲載日:2021年10月15日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第17回 原型炉設計 条件整う

 核融合発電の実現に、トカマク型プラズマ磁場閉じ込め方式が最速であることは世界の共通認識だ。今、原型炉設計に必要な物理的、技術的条件が整いつつある。

 難問だったプラズマ性能の向上は、建設中の核融合実験炉イーターで、エネルギー増倍率(Q=出力パワー/入力パワー)10以上のプラズマを400秒以上持続して実現する。重水素・三重水素の核融合反応で発生する高速のヘリウム(3.5百万電子ボルト)は反応維持に必要なプラズマ加熱の70%程度を担う計算で、この確認が重要な物理課題だ。これは、原型炉の要求であるQ=17、ヘリウムによる加熱80%程度の実現の指標となるものでもある。

 一方、未実証の技術課題は、発生した高速中性子(14.1百万電子ボルト)を三重水素の生産と同時に熱化する「ブランケット」の設計だ。ブランケットでは、1個の中性子をベリリウムとの反応で2個に増やした後、リチウムと反応させ1個以上の三重水素を生産する。日本は、計算機を駆使した設計により、三重水素の生産に優れる水冷却方式のブランケットを考案している。

核融合発電 第17回 画像

 原型炉実現に向けては、産学の専門家100名以上で構成された設計チームが、イーターの機器製作や発電プラント技術・運転の知見を取り込み、技術的に成立する概念を構築すべく活動している。

 設計チームは、プラズマの閉じ込め磁場を発生する超伝導コイルや、高熱粒子束を受ける「ダイバータ」と呼ばれる受熱機器に、イーターの技術を活用する。前述の原型炉のヘリウムによる加熱80%で残る20%は、発電した電力の一部の還流となる外部からの中性粒子入射などにより加熱する。要のブランケットには、高温高圧水(300℃、150気圧)を流す構造物を採用し、中性子の重照射に一定期間耐える材料を選択した。

 他の構成機器の検討も経て、核融合出力150万キロワット(イーターの3倍)、64万キロワットを発電する原型炉の基本概念が完成した。原型炉本体は、イーターよりも少し大きい外径45m、高さ36m、ブランケットやダイバータの保守・交換時間も産業界の経験に基づき評価し、稼働率70%のめどもついている。

 計画が順調に進めば、2040年代半ば頃に核融合発電所が稼働する見通しだ。

 

執筆者略歴

核融合発電 第17回 著者近影

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子エネルギー部門 核融合炉システム研究開発部
核融合炉システム研究グループリーダー

坂本 宜照(さかもと・よしてる)

JT-60U装置で核融合プラズマの研究に10年間従事した後、原型炉設計の研究に軸足を移した。現在、産学が連携する原型炉設計合同特別チームのリーダーを務める。博士(理学)。

本記事は、日刊工業新聞 2021年10月7日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(18)核融合発電 原型炉設計の条件整う(2021/10/7 科学技術・大学)