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核融合発電 第18回 イーターのプラズマ スパコンで事前予測

掲載日:2021年10月22日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第18回 イーターのプラズマ スパコンで事前予測

 核融合発電炉では、ドーナツ状のプラズマ中を周回して流れる高プラズマ電流が、定常に維持されていることが必要だ。生成されたプラズマ中では、内部の圧力が過剰になったり、局所的に抵抗が増えるなどの不安定性が発生することがある。この不安定性に起因する、電流の急減とともにプラズマの保有するエネルギーが急放出される現象、「ディスラプション」が定常運転を阻む最大の課題だ。

 約半世紀前の課題判明から、電磁流体力学を基礎に理論がつくられ、実験との比較やシミュレーションを通じて、発生条件の理解が進み、ディスラプションを起こさず定常高プラズマ電流を安定に維持する技術が発展し、難問克服への挑戦は最終段階にある。

 建設中の核融合実験炉イーターでは、人類が初めて経験する本格的な核燃焼プラズマを用いて安定運転を実証する。実験の試行錯誤の過程では、一定数のディスラプション発生が想定され、放出される大きなエネルギーによる装置へのダメージが懸念点だ。

 そこでスーパーコンピューターによりイーターのプラズマをシミュレーションし、実験を事前に予測した。ディスラプションではエネルギーの高い電子が増幅されやすく、これが壁に衝突すると装置に損傷を与える可能性があることを明らかにした。

 さらに、対策についてもシミュレーションによる検討が進んでいる。この損傷を防ぐために、ディスラプションの兆候を検知した時点で、強制的にプラズマの保有エネルギーを下げる特別な機器「イーターディスラプション緩和システム」を装備することを決定した。

 この機器は、水素とネオンの混合ガスを氷点下260度以下に冷却して作ったワインコルク大の氷を粉砕、スプレー状にして入射し、プラズマを冷却する仕組みであり、現在、氷とその入射の最適条件を探る研究が進行中だ。

核融合発電 第18回 画像

 イーターの初プラズマ以降、このディスラプション発生時の緩和システムにより、装置損傷を回避し、50万キロワットの核融合出力の実証に貢献する。このように、スーパーコンピューターの進歩を背景とした、シミュレーションに基づくプラズマの予測や解析が極めて有効な検討手法となっており、イーターでの難問克服は、定常運転を行う原型炉の早期実現にも貢献するのである。

 

執筆者略歴

核融合発電 第18回 著者近影

量子科学技術研究開発機構(QST)
六ヶ所研究所 核融合炉システム研究開発部
プラズマ理論シミュレーショングループ 主幹研究員

松山 顕之(まつやま・あきのぶ)

専門は核融合プラズマの理論、データ解析、シミュレーション研究。イーター機構が組織したディスラプション緩和システム開発のタスクフォースの理論モデリング班副リーダーを務める。

本記事は、日刊工業新聞 2021年10月14日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(19)核融合発電 イーターのプラズマをスパコンで事前予測(2021/10/14 科学技術・大学)