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量子エネルギー部門

核融合発電 第19回 高速中性子耐える材料開発

掲載日:2021年10月28日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第19回 高速中性子耐える材料開発

 プラズマ中で起こる核融合反応で生じたエネルギーは、光速の約6分の1という高速中性子の形で取り出される。核融合炉の材料は、このような中性子照射に対しても、優れた耐性を持つことが必要だ。原型炉実現に向け、中性子によって長い半減期の放射性核種が生成しないように成分調整した高クロム耐熱鋼(「低放射化フェライト鋼」と呼ぶ)の開発が進む。

 大量の中性子が材料中の原子に衝突すると、まるでビリヤード球が次々と別の球を弾き飛ばして行くように材料を形作る原子配列が乱される。同時に、中性子との核反応により材料中にヘリウムや水素などの常温で気体となる原子が多く発生し、材料に隙間ができる。これらの相乗効果により、材料中には膨れる、脆くなるなどの性状の変化が生じるため、原型炉実現には、その影響が現れる中性子照射量の条件を知ることが必須だ。

 これを調べるために、量子科学技術研究開発機構(QST)高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA)を使って、主要元素(鋼であれば鉄)、ヘリウム、水素の3種類のイオンビームを同時に照射し、高速中性子照射の環境を模擬することを考案した。その結果、材料の性状変化を簡便かつ短時間に調べることが可能となった。

 しかしこれらのイオンビームは材料の奥深くまで入り込まないため、影響は極表層(表面からわずか1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)程度)に限られ、厚みのある評価試験片を使って照射影響による強度変化を直接知ることは困難だった。

核融合発電 第19回 画像

 この克服のため、新たに試験片を微細に加工する、試験片を真っ直ぐ引っ張る、微小な梁のたわみから材料にかかる力を測定する、非接触で伸びを測定するなどのマイクロサイズの試験技術を開発した。材料を構成する結晶(原子が規則正しく配列した固体)の塊の中のマイクロサイズのサブ構造や、それらの境界などのわずかな模擬照射領域中における材料特性の変化を直接測定できる画期的な技術だ。これにより、イオンビーム照射施設を使って、中性子影響をさまざまな条件下で照射模擬し、材料特性を効率良く比較できる研究手法を確立できた。

 今後は本技術を駆使して核融合中性子影響の発現条件を見極めるとともに、原子から構造体レベルまでの変形や破壊のメカニズムを解明し、原型炉環境に耐える材料の完成を目指す。

執筆者略歴

核融合発電 第19回 著者近影

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子エネルギー部門 核融合炉材料研究開発部
核融合炉構造材料開発グループリーダー

野澤 貴史(のざわ・たかし)

博士(エネルギー科学)。核融合炉材料の破壊に関する照射効果研究に従事。最近は材料試験技術の国際ガイドライン策定や核融合炉環境で材料を使うための新しいルール作りに携わる。

本記事は、日刊工業新聞 2021年10月21日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(20)核融合発電 高速中性子に耐える材料開発(2021/10/21 科学技術・大学)