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核融合発電 第20回 加速器で中性子環境 模擬

掲載日:2021年11月4日更新
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量子科学技術でつくる未来 核融合発電
第20回 加速器で中性子環境 模擬

 核融合炉の構造材料は、反応で生成された大量の高速中性子にさらされても、一定の耐久性を持つことが安全上の絶対条件だ。中性子が材料に当たると、脆化など、強度が劣化することが知られており、材料の交換時期を適切に規定するには、核融合炉内環境と同等の中性子照射下で材料の特性変化を調べる必要がある。

 核融合中性子の速度は約14百万電子ボルトと高速で、照射環境として知られる原子炉の中性子の平均速度2百万電子ボルトでは、同環境の充分な模擬にはならない。そこで、重水素イオン(重陽子という)を加速してリチウムに衝突させ、核融合炉と同じ約14百万電子ボルトの速度の中性子を大量に作り出す加速器を構想した。この加速器は、世界最高強度の重陽子ビームを取り扱う前人未踏の装置だ。

 現在、この加速器のプロトタイプとなる「IFMIF原型加速器」(速度9百万電子ボルト,電流125ミリアンペア、定常)の試験を実施中だ。電流が高くなるほど、電気的に反発する重陽子の反発力を抑え込みながら加速する必要があるため、加速器の内面に衝突させないよう、高い加速電界、高い工作精度、大電力高周波の高速フィードバック制御などの極めて高度な設計製作と制御技術が要求される。

核融合発電 第20回 画像

 加速器を構成するそれぞれの機器には、これらの要求を満たすべく、(1)高品質の大電流ビームを作り出すイオン源(2)世界最長のRFQ(高周波四重極加速器)(3)フルデジタル制御の高周波制御ユニット、といったこれまでにない特徴を持つ機器を新たに開発し、採用した。

 現時点での達成性能は、速度5百万電子ボルト、電流125ミリアンペア(世界最高記録)、パルス長1ミリ秒であり、さらにパルス長を伸ばし定常加速を実現するべく試験を進めている。目標とする核融合炉内環境を模擬する加速器(エネルギー40百万電子ボルト、電流125ミリアンペア、定常)では、500立方センチメートルの照射領域に対して1年間で核融合炉の数年間に相当する照射試験が可能となり、材料の耐久性に関する実証データを提供する計画だ。

 核融合炉の実現には、材料データなどを基にした規格基準を含む安全規制が、社会的受容の大前提となることから、早期の発電実現に向け、材料開発の観点でも大いに貢献して行く。

執筆者略歴

核融合発電 第20回 著者近影

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子エネルギー部門 核融合炉材料研究開発部
IFMIF加速器施設開発グループリーダー

近藤 恵太郎(こんどう・けいたろう)

博士(工学)。国際核融合材料照射施設(IFMIF)の工学設計及び同原型加速器の実証試験に従事。六ヶ所研における日欧共同チームの活動を、日本側ホームチームリーダーとして主導。

本記事は、日刊工業新聞 2021年10月28日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(21)核融合発電 加速器で中性子環境を模擬(2021/10/28 科学技術・大学)