株式会社キノファーマ(本社:東京都中央区・代表取締役社長:黒石眞史)と、国立研究開発法人量子科学研究開発機構(所在地:千葉県千葉市・理事長:平野俊夫、以下「量研」)放射線医学総合研究所(以下「放医研」)脳機能イメージング研究部の樋口真人チームリーダーの研究グループは、アルツハイマー病の原因の一つと考えられているタウと呼ばれる蛋白質(以下「タウ蛋白質」)1)の蓄積に対する同社化合物KPO1143の薬効を評価する共同研究契約を締結しましたので、お知らせいたします。
アルツハイマー病研究開発の背景及び目的
株式会社キノファーマでは科学技術振興機構(JST)A-STEPのプログラムの支援(開発委託)により、タウ蛋白質の異常凝集の引き金となる、タウ蛋白質の過剰リン酸化を抑制可能な創薬研究を展開した結果、開発候補化合物であるKPO1143を創製するに至りました。
本共同研究では、同社化合物であるKPO1143を、ヒトタウ遺伝子を導入してタウ蛋白質を過剰に発現したマウスに投与し、量研・放医研の生体脳でタウ蛋白質を可視化するPET2)技術により、生体でタウ蛋白質の蓄積を阻害する効果を評価することにより、KPO1143のアルツハイマー病治療薬候補物質としての薬理作用評価を行う予定です。
量研・放医研では、日本医療研究開発機構(AMED)の委託事業である「タウを標的とする新規画像診断法と治療法の研究開発コンソーシアム構築」の中で、生体脳でタウ蛋白質を可視化するPETトレーサーを開発、これを用いてタウ蛋白質をバイオマーカーとした治療効果評価システムからなる創薬プラットフォームを活用して本共同研究を行います。
アルツハイマー病について
国際アルツハイマー病協会の2015年時点での推計では、世界中で約3秒に1人が新たに認知症を発症しています。日本でも厚生労働省研究班の調査で2012年の時点で約462万人の認知症患者がおり、今後ますます患者数が増えていくことが予想されています。認知症患者のおよそ半数を占めるとされるアルツハイマー病患者の脳内には、アミロイドβ(以下、Aβ)3)やタウ蛋白質が蓄積し、神経細胞が死ぬことで、物忘れなどの症状が出現してきます。アルツハイマー病発症の原因は究明されておらず根本的な治療方法は確立されておりませんが、近年、タウ蛋白質の異常凝集による蓄積がその原因であることが言われています。患者脳で蓄積するタウ蛋白質は過剰にリン酸化されており、タウ蛋白質のリン酸化と凝集や蓄積には密接な関係があると考えられています。
株式会社キノファーマについて
株式会社キノファーマは、2005年4月に萩原正敏教授(現・京都大学大学院医学研究科教授、当時・東京医科歯科大学教授)を創業科学者として設立された大学発ベンチャーであり、キナーゼ(リン酸化酵素)を標的として、ウイルス性のイボ(尋常性疣贅)、流行性角結膜炎、B型肝炎など、多様なウイルス性疾患を対象とした新規低分子治療薬及びアルツハイマー病などの神経変性疾患治療薬の研究開発に取り組んでおります。
国立研究開発法人量子科学研究開発機構について
2016年4月に発足した国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構は、全国5研究所の研究開発力を統合し、放射線の医学利用と影響や防護・被ばく医療研究、量子ビームによる物質・材料科学、生命科学等の先端研究開発、高強度レーザーなどを利用した光量子科学研究、核融合研究を実施しています。このうち、放射線の医学利用と影響や防護・被ばく医療研究は、放射線医学総合研究所が主として研究開発に取り組んでいます。
用語説明
1)タウ蛋白質
神経系細胞の骨格を形成する微小管に結合する蛋白質。細胞内の骨格形成と物質輸送に関与している。アルツハイマー病をはじめとする様々な精神神経疾患において、タウ蛋白質が異常にリン酸化して細胞内に蓄積することが知られており、そのタウ蛋白質の蓄積がそれらの疾患の発症原因と考えられている。
2)PET
陽電子断層撮影法(Positron Emission Tomography)の略称。身体の中の生体分子の動きを生きたままの状態で外から見ることができる技術の一種。特定の放射性同位元素で標識したPET薬剤を患者に投与し、PET薬剤より放射される陽電子に起因するガンマ線を検出することによって、体深部に存在する生体内物質の局在や量などを三次元的に測定できる。
3)アミロイドβ(Aβ)
おもにアルツハイマー病にみられる病理学的変化である老人斑、脳アミロイド血管症(アミロイドアンギオパチー)の主成分の1つ。Aβ自身も神経細胞に毒としての作用を及ぼすことが報告されている。