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プレスリリース

がん組織の高い温度に反応し、ナノ微粒子が特異的に集積する仕組みを開発-副作用のないがん治療へ期待-

掲載日:2017年3月7日更新
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発表のポイント

  • 従来の薬剤分子のがん組織への集積は効果が不十分で時間がかかり、正常組織にも薬剤が働きかける問題があった。
  • がん組織の隙間へ入り込み、温度に反応して自らサイズを大きくして集積するナノ微粒子を開発した。
  • 患者に副作用を与えず、低い投与量で効果を生み、患者への負担が少ないがん診断や治療に役立つことが期待される。

JST 戦略的創造研究推進事業において、九州大学 大学院薬学研究院の唐澤 悟 准教授らは、がん組織の温度に応答して薬剤分子を集める仕組みを開発しました。
ドラッグデリバリーシステム(DDS)1)は体内の薬剤分布を量的、空間的、時間的に制御する薬剤運搬技術で、がん治療の1つとして研究が進んでいます。従来は、血管に生じる「隙間」を利用して、数十~百ナノメートルサイズのナノ微粒子中に薬剤を内包させ、がん病巣へ薬剤を集積させます。しかし、この方法では薬剤が正常な組織にも分布するため、副作用を発症するなどの問題がありました。そのため、がん組織のみを狙う高精度ながん集積法を持つDDS開発が望まれていました。
がん組織は、活動が活発なため正常な組織よりも温度が高いことが知られています。唐澤准教授らは、温度が変わると分子が集合して形やサイズが変化する「温度応答性ナノ微粒子」を研究し、がん組織に分子を集めて留まる方法を新たに開発しました。このナノ微粒子は、ヒトの体温よりも少し高温の温度域で自ら集合して大きなサイズになります。がんを持つマウスへ蛍光分子を取り付けたナノ微粒子を投与したところ、がん細胞の温度に応答してナノ微粒子ががん組織に集積する様子が蛍光イメージング2)で観察されました。
この方法を利用することで、従来のDDSが抱えていた、がん細胞以外への副作用を解決するだけではなく、低い投与量で負担が少ない、新たながん診断や治療に役立つことが期待されます。
本研究は、九州大学 大学院薬学研究院の荒木 健さん、臼井 一晃 助教、量子科学技術開発機構の青木 伊知男 博士、村山 周平 博士らと共同で行ったものです。
本研究成果は、2017年3月7日(米国東部時間)に米国科学誌「Nano Letters」のオンライン速報版で公開されます。

研究の背景と経緯

副作用を起こさずがん治療を行うことは、多くのがん患者や家族の願いです。そのためには、がん細胞やがん組織へ無駄なく薬剤を分布するかが重要となり、この目的達成のために新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が活発に行われています。近年、がん細胞の活発な活動で生じる隙間(図1)に着目した研究が、DDSの鍵として注目を集めています。これはがん組織内に生じる隙間が、数十~数百ナノメートルであることを利用して、その隙間へサイズフィットするナノ微粒子を用いて薬剤を集積させる方法です。しかし、多くのナノ微粒子はがん細胞の活発な活動で生じる隙間に対してサイズフィットしているものの、自らがん組織に特異的に集積することができず、薬剤の大量投与が必要などの問題がありました。副作用なく効率的にがん治療を行うにはこれらの問題を解決する必要があり、新しいがん組織への集積機構を持つナノ微粒子の開発が望まれていました。

正常組織とがん組織との携帯と温度の違い解説図
図1 正常組織とがん組織との携帯と温度の違い
がん組織中には、血管内皮細胞の周辺に数十~数百ナノメートルの隙間や、がん細胞自身の周辺にも隙間が生じる。また、がん細胞は活発に活動するため正常組織よりも温度が高く、乳腺がんが2℃程度高温であると報告された例がある。本研究で開発した温度応答性ナノ微粒子(緑色の球)はがん組織の隙間に入り込みサイズアップし(茶色の球)、がん中に留まるように設計を行った。

研究の内容

がん細胞や組織は細胞間に隙間が生じるだけでなく、温度が正常細胞や組織よりも高くなる性質があります。がんの種類や大きさによって差はあるものの、例えば乳がんの一種では2℃程度高温を示すとの報告があります。そこで研究者らは、がん組織の持つ高温性を利用することを考え、温度応答性ナノ微粒子を開発しました。このナノ微粒子はサイズフィットでの集積効果が期待できるばかりでなく、温度に応答してさらにサイズアップできるため、がん組織の高温性に速やかに応答して加速的にがんへ集積できることが期待されます。

ナノ微粒子の温度応答性とサイズ変化

この微粒子を水へ溶かすと「透き通った」溶液になりますが、高温にすると微粒子同士が集まり始め、溶液に「濁り」が生じます(図2)。この微粒子のサイズ変化を計測した結果、透明溶液中では10nm程度の小さい球状の微粒子でしたが、濁り始めると100~1000nm程度の大きな微粒子にサイズアップしていることが分かりました(図2)。以上のことより、微粒子が小さい時にがんの隙間へ入り込み、高温にさらされることよってサイズアップし、がん組織への集積が加速されることが期待されました。そこで、このような温度に応答する微粒子の「濁り」始める温度に注目し、35℃(微粒子1)、37℃(微粒子2)、40℃(微粒子3)と、異なる温度で濁り始める微粒子を作り分けました。微粒子1~3の間でサイズや形態変化に大きな違いはありませんでした。マウスの体温を35℃付近とし、がん組織がそれよりも高いと仮定した場合、濁り始める温度が低い、微粒子1>微粒子2>微粒子3の順序で、がん組織に集積するのではないかと考えられました。

温度によってサイズアップした微粒子の写真
図2 微粒子が温度に反応してサイズアップする様子
微粒子を含む「透明」溶液を加温すると微粒子のサイズが大きくなり、「濁り」溶液に変化する。微粒子の透過型電子顕微鏡写真と微粒子が温度に反応してサイズアップする様子を透過度変化の温度依存性で示した。濁り始める温度が異なる3種類の微粒子を作り分けた。

マウスを使った実験

マウス体内での温度応答性を調べるために、がん組織を植えた担癌マウス3)へ蛍光分子を取り付けた微粒子1~3の投与を行い、蛍光イメージングで観察しました。その結果、明らかにがん組織付近に強い蛍光が観測され、正常組織には蛍光が観測されませんでした(図3)。このことはがん組織へ集積した微粒子が温度に応答してサイズアップし、がん組織へ加速的に集積され留まっていることを示唆しています。また、微粒子のサイズが大きくなる温度に依存して、蛍光強度が変化し、微粒子1>微粒子2>微粒子3の順で蛍光が強くなりました。これらのことから、

  1. 微粒子が温度に応答して加速的にがん組織へ集積すること
  2. 微粒子の集まり方は、微粒子のサイズが大きくなる温度に関係していることが明らかとなりました。

担癌マウスへの微粒子投与実験の解説図
図3 担癌マウスへの微粒子投与実験
蛍光分子を取り付けた微粒子1は、35℃以上でサイズアップする。担癌マウスへ、この微粒子1を投与し、蛍光イメージングで組織を観察した結果、がん組織付近のみに強い蛍光が観測された。これにより、温度の高いがん組織へ特異的に微粒子が集積・サイズアップし、正常組織には集まらないことが確認された。

用語解説

  1. ドラッグデリバリーシステム
    効率的な薬剤治療を達成するための技術をまとめて称する。例えば、狙ったところにだけ薬剤を運ぶこと(空間的制御)、希望した時間にだけ薬剤が放出すること(時間的制御)、必要量のみ放出すること(量的制御)、などを指す。薬剤運搬システム。
  2. 蛍光イメージング
    目的の化合物や微粒子に蛍光分子を取り付け、そこから発せられる蛍光を観察する手法。
  3. 担癌マウス
    別の種で作成したがん組織を皮下などへ移植したマウス。
  4. MRI造影剤
    MRI診断の際、診察箇所のコントラスト比が増強し疾病が識別しやすくするために用いる薬。

論文タイトル

“Self-Assembly Behavior of Emissive Urea Benzene Derivatives Enables Heat-Induced Accumulation in Tumor Tissue”
(加熱刺激でがん集積を可能とする発光性ウレアベンゼン誘導体の自己集合化挙動)
doi:10.1021 /acs.nanolett.6b05371

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