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プレスリリース

レーザー生成プラズマ光源の光強度増大現象を発見-生物細胞を観察する超解像顕微鏡の実現や次世代半導体露光機の低コスト化へ-

掲載日:2017年8月1日更新
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発表のポイント

  • ターゲットに大強度レーザー光を照射して生成されたプラズマから発生する「水の窓」波長域*1の軟X線*2強度が、プラズマの周囲に導入した窒素ガスの圧力に応じて増大した。
  • 窒素ガスを導入するだけの簡単な方法で、軟X線強度が約一桁増大した。
  • レーザー生成プラズマ光源は、空間分解能数10nmの軟X線顕微鏡*3や次世代半導体露光機*4などに応用されている。今回の発見は、軟X線の幅広い波長領域で見られる現象で、これらの装置の低コスト化につながる技術となる。

概要

真空中に置いたターゲットに大強度レーザー光を照射して生成されるプラズマからは様々な波長の光が放出され、比較的簡便な方法であることから軟X線領域の実験室光源として利用されています。今回、東北大学多元物質科学研究所の江島丈雄、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の加道雅孝、岸本牧、東海大学工学部の篠原邦夫らの研究グループは、金属ターゲットを窒素ガス中に置いたときに、ガスの圧力に応じて「水の窓」波長域の軟X線強度が増大する現象を発見しました。
これまで、軟X線領域の光はガスに吸収されるため光強度が増大するとは考えられてこなかったのですが、窒素のK殻吸収端*5において吸収が著しく弱くなる波長領域があることと、プラズマ中で軟X線の発光を担う高エネルギーイオン数が通常の場合よりも増えたことにより、発生する光強度が増大しました。
得られた結果に基づくと、この現象は波長2nmから30nmにかけての広い波長域で起こる可能性が示唆されます。従って、波長の短さを利用する空間分解能、数10nmの軟X線顕微鏡や波長13.5nmや6.xnmの光を利用する次世代半導体露光機の光源技術として、この現象は応用が可能です。
本研究成果は、2017年8月1日にApplied Physics Lettersのオンライン版で発表されました。また、この研究成果の一部は、文部科学省科学研究費補助金 基盤B(課題番号16H03902)の支援を受けています。

研究グループ

  • 江島 丈雄
    国立大学法人東北大学 多元物質科学研究所・准教授
  • 加道 雅孝
    国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学研究部門・研究企画室長代理
  • 岸本 牧
    国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学研究部門 関西光科学研究所・上席研究員
  • 篠原 邦夫
    学校法人東海大学工学部・客員研究員
    研究実施当時、日本原子力研究開発機構(現在の量子科学技術研究開発機構)
    研究嘱託を併任。

詳細な説明

1.経緯

物質にレーザー光を照射して生成されるプラズマを利用した光源は、レーザー生成プラズマ光源(LPP光源)と呼ばれ、軟X線領域の実験室光源として利用されています(図1)。生成される軟X線は、励起レーザーの持続時間程度の短いパルス幅と、励起レーザーの波長やターゲット種に応じた発光波長を示すことが知られています。特にCO2レーザーと錫のドロップレットターゲットの組み合わせによるLPP光源は、波長13.5nmの次世代半導体露光機光源*6として開発が進んでいます。
一方でターゲットに金などの重金属を用いたLPP光源は、酸素と炭素の吸収端の間(「水の窓」波長域, λ=2.3nm~4.5nm)の波長の光が得られることから、軟X線顕微鏡の光源として利用されています。我々のグループでは、従来から培養液中の生物細胞試料のnm構造を観察するために、レーザー生成プラズマ光源から放出される軟X線を利用してきました。その研究過程で、窒素ガス中でターゲットにレーザーを照射すると、得られる軟X線強度が増大する現象を新たに発見しました(図2)。

図1: 金属ターゲットにレーザーを照射したときに生成されるプラズマからの発光。の画像
図1:金属ターゲットにレーザーを照射したときに生成されるプラズマからの発光。

図2: これまでのLPP光源と今回のLPP光源との違い。の画像
図2:これまでのLPP光源と今回のLPP光源との違い。

2.研究方法

ガス中のレーザー生成プラズマからの発光強度を計測するために、大阪大学レーザーエネルギー学研究センター(当時)に課題申請を行って実験を行いました。励起レーザーは激光XII号(波長:1053nm、120J/pulse、duration time=500ps)を用い、ターゲットにはAu箔(99.9%、thickness=200μm)およびAl箔(99.9%、thickness=200μm)を用いました。ターゲットは真空槽内部のレーザー光の焦点位置に設置され、ガス圧を制御しながらレーザー光を照射しプラズマを生成しました。真空槽に導入したガスは、純度99.996%の窒素ガスです。ガス圧力はピラニ真空計を用いて計測し、真空槽の到達真空圧力は1.4x10-4Torrでした。プラズマから発光した軟X線は、平面結像型分光器を用いて分光計測しました。このときの分光器の波長分解能λ/δλは100以下でした。発光点から分光器内の軟X線検出器までの距離は1632mmで、ガス導入時には全光路がガスで満たされています。

3.測定結果

導入した窒素ガスの圧力を0Torrから3Torrまで変えたAuプラズマからの発光スペクトルを図3に示します。プラズマから発光した軟X線は導入した窒素ガスにより吸収されるため、正確な光強度を求めるためには窒素ガスによる吸収率により補正を行う必要があります。図3はこの補正を行った結果です。図中では、到達真空圧力を「0Torr」と表記しています。波長ごとに多少異なりますが、ガス圧力が0Torrから3Torrに増える間に得られた発光強度は約一桁増大しました。
ターゲットをAuからAlに変えて同様の測定を行った結果を図4に示します。Auの場合とは異なり、スペクトル形状は0Torr時と2Torr時でほぼ同じ形状を示す一方で、光強度はほぼ一様に約一桁増加しました。比較のために計算により求めたAlイオンの遷移確率を価数ごとに色分けして図3に書き入れてあります。この比較から、Alプラズマ発光スペクトルがほぼAlイオンで説明でき、ガスの導入前後でアルミイオンの価数はほとんど変化していないことが分かります。

図3: Auプラズマからの発光強度のガス圧力依存性。の画像
図3:Auプラズマからの発光強度のガス圧力依存性。

図4: Alターゲットの発光スペクトルのN2ガス圧依存性。の画像
図4:Alターゲットの発光スペクトルのN2ガス圧依存性。

4.現象の説明

図3および図4は、AuプラズマおよびAlプラズマのどちらにおいても、ほぼすべての波長域でガス導入に伴って一様にスペクトル強度が増大することを示しています。また、図4のAlプラズマ発光スペクトルがほぼAl特性線で説明できることから、AIプラズマ発光スペクトル中に窒素プラズマからの寄与はないと考えられます。また実験条件が同じであることから、Auプラズマ発光もAlプラズマ発光と同様の説明が可能です。
AuプラズマおよびAlプラズマの発光強度増大が測定した波長全領域で起こっていることから、発光強度増大に伴ってプラズマ中のイオン価数の変化は少ないと考えています。言い換えると、プラズマのマクロな変化、すなわち発光に寄与するイオン数の増加によって、発光強度の増大が起こっているだろう、ということです。現時点でイオン数が増加する詳細な機構は不明ですが、ガス導入に伴って発光に寄与する高い価数のイオンの寿命が長くなったと考えています。

5.今回の結果から考えられる応用

我々のグループで過去に行った軟X線顕微鏡によるマウス精巣ライディッヒ細胞を1パルスで撮像した実験結果に基づくと、空間分解能80nmで露光に必要な光子数は、4.4×1011photons/mm2でした。このときに使用したレーザーは波長1053nm、パワーが20J/pulse、レーザーの持続時間が600ps/pulseのNd:Glassレーザーで、日本原子力研究開発機構関西光科学研究所(当時)で設計・作製したものです。今回の結果に基づいて、励起レーザーに投入したパワーに対して得られた軟X線強度の比である変換効率が10倍になると仮定すると、市販の2.0J/pulseのNd:YAGレーザーにより光子数が4.4×1011photons/mm2となりました。これは市販のレーザーで可視顕微鏡の空間分解能を大幅に超える顕微鏡が開発できる可能性を示しています。
更に、直接の比較はできませんが、今回の実験以降、励起レーザー、ターゲットとガスの種類を変えても同様の現象が起こることが確認できました。励起レーザーにNd:YAGレーザー(~1J/pulse)、ターゲットにタングステン、導入ガスにHeを用いた実験結果を図5に示します。図5の結果は、軟X線の広い波長域で同様の現象が起きることを示唆しています。LPP光源を使用する次世代半導体露光装置の場合にもこの技術が適用できれば、上記の顕微鏡と同じ理由により光源の低コスト化を図ることができるでしょう。

図5: Wターゲットの発光スペクトルのHeガス圧依存性。の画像
図5:Wターゲットの発光スペクトルのHeガス圧依存性。

6.まとめ

激光XII号を励起レーザーとした窒素ガス雰囲気中のAuとAlプラズマからの波長2.9nm~6nmの発光強度が、窒素ガスの圧力に応じて増大する現象を新たに見出しました。観測された発光スペクトルとAlイオンの遷移確率との比較による議論から、窒素ガス導入に伴う発光強度の増大が、発光に寄与するイオン数の増加によって説明できることを示しました。今回得られた結果は、レーザー生成プラズマ光源の可視-軟X線の変換効率が、ガス導入によって約一桁、増大したことを示しています。また、これらの現象は、実験条件を変えることにより、他の軟X線波長域でも観測されることを示しました。

用語集

  • *1「水の窓」波長域: 酸素と炭素のK殻吸収端の間の、波長2.3nmから4.5nmの間の軟X線を指す。この波長域では、酸素の吸収が少なく、炭素による吸収が高いため、含水生物細胞を非染色で観察することが出来る。
  • *2軟X線: 波長30nm~0.数nmの波長の光のこと。物質と強く相互作用をするため、大気中を通過する事が出来ず、その利用は真空中で行う必要がある。
  • *3軟X線顕微鏡: 軟X線を利用する顕微鏡のこと。レンズを用いる顕微鏡の空間分解能は使用する光の波長に比例するので、使用する波長が短いほど空間分解能の高い顕微鏡ができる。「水の窓」波長域で動作させることで、含水生物細胞中のnmスケールの細胞内小器官を観察することもできる。ビームを細く絞り、走査型とする場合もある。
  • *4半導体露光機: ステッパーとも呼ばれる。半導体素子を製造する装置の一つで、回路パターンを縮小投影してシリコンなどのウェハーに焼き付ける役割を果たす。回路パターンの焼き付けは、ウェハー上にレジストを塗布し、レチクルのパターンを投影レンズにより1/4から1/5に縮小して、ウェハー上を移動(ステップ)しながら投影露光する。現在の主流は、微細化と量産化に対応するために、投影レンズとウェハーの間の空間を液体で満たす液浸方式が用いられている。
  • *5吸収端: 元素に光を当てその波長を短くしていくと、元素の内殻電子の束縛エネルギーに相当する波長以下になると内殻電子が励起され、光が強く吸収されるようになる。その吸収されるようになる波長の境界を吸収端という。内殻電子は、主量子数の順に、K殻、L殻、M殻 と名付けられているため、光の吸収が起きる内殻電子に応じて、K殻吸収端、L殻吸収端 と呼ばれる。
  • *6次世代半導体露光源: 極紫外半導体露光機とも呼ばれる。回路パターンの焼き付けを行う縮小投影露光機の空間分解能は顕微鏡と同様に波長に比例するため、半導体素子の微細化に伴って波長13.5nmや波長6.xnmの極紫外*7/軟X線を利用する研究・開発が行われている。図6に波長13.5nmの半導体露光機の概念図を示す。レーザー生成プラズマ光源から出た極紫外線を、集光光学系で集めて反射型のマスク(回路パターンの原版)を照明し、反射してきた回路パターンを6枚の反射鏡から成る極紫外光学系によりウェハー上に縮小投影し、焼き付ける。
  • *7 極紫外: 波長30nm~数nmの波長の光のこと。軟X線を半導体露光機に応用する際に使用する波長域をこのように呼ぶ。ブラッグ反射を利用し、光の垂直入射・垂直反射ができる「反射多層膜鏡」を利用する波長域を指す。

図6: 波長13.5 nmを利用した半導体露光機の概略(D. Attwood, private comm.)の画像
図6:波長13.5nmを利用した半導体露光機の概略(D. Attwood, private comm.)

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